dream

□最終話 a
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朝日が昇り、鳥が囀る早朝。
今日は鮮やかな青空が広がっていた。木々は風に靡いて、新たな芽を出す準備をしている。

街は、平日ならば仕事や学校へ向かうために込み合う駅前も今は人通りが少なくなっている。なぜなら今日は日曜日。前日までの無理や心身の疲れを癒すために、殆どの者はまだ夢の中だ。



そんな朝早くに病院を訪れる少年がいた。


本来ならば面会時間はもっと遅い時間だが、少年はなんの躊躇いもなく病院内を歩く。時々すれ違う早起きな老人患者や看護士に挨拶をしたりしながら、目的の病室へ向かう。







病室の中では一人の少女が眠っていた。

少年と少女の顔は瓜二つ。少女は右側の髪が紅く、少年は左側が紅いくらいしか違いは見受けられない。




少女の目には光は燈ってはいない。目は開いているが何も見ていないのだ。
時折目を見開き、確かにこの世界を見てはいるのだが、それは一瞬の出来事ですぐにまた光を失う。

少年はそんな少女に、ただ早く目を醒まして欲しいと願うだけだった・・・




少年は少女が眠っているベットの側にある車椅子を丁寧に広げ、少女を車椅子に乗せた。その動作は少女に負担をかけさせないように丁寧且つ迅速だった。




ガラッ

病室のドアが開き、一人の看護士が入ってきた。手には摘んできたばかりの草花が入った花瓶を持っている。


「おはよう。早いのね」

「おはようございます。今日は特別ですから」

「もしかして今日なの?卒業式」

「はい」

「卒業おめでとう」

「まだ早いですよ。・・・でも、ありがとうございます」



「気をつけてね」

「はい」


少年は車椅子を押して病室を、病院を出た。


少年は車椅子に乗った少女を連れ、昨日まで普通に通っていた中学校へと足を運ぶ。






少年が中学校に着く頃には既にSHは終わり、卒業式を始める為に一・二年生と保護者は体育館に入っていた。


「あ!やっと来た」

「遅いぞ!」

「悪い。思ったより時間かかって・・・」

「いいから、早く並んで」

「そうですよ。早くこっちに来て下さい」

「あれ?春奈ちゃん、ここにいていいの?」

「私がお二人にリボン付ける係なんです」

「ああそれで・・・
でもこれくらい自分で出来るからよかったのに」

「ふふ。春奈ちゃんがどうしても自分でやりたいって言ってね」

「秋さんっ!」

「ありがとな、春奈ちゃん」

「いえ、・・・嬉しいです」














「卒業生、入場」


拍手と共に静かめの曲が流れ始める。


ある生徒はワクワクしながら、ある生徒は早くも泣きそうになりながら、ゆっくりと入場していく。

車椅子を押して少年も続く。


所定の場所に車椅子の少女を連れていき、その隣のパイプイスに座る。



式典での話は長い。
校長の話、PTA会長の話、来賓の話・・・



少年はそれらの話を聞きながらこの中学校に転入してきた頃を思い出していた・・・・・・
 

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