長編

□第1章
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「ガサッ」


音がした。 反射的に後ろを振り返る。


「....?」


見れば 屋上の出入口の影から 見覚えのある銀髪がみえた。


「....万事屋?」



土方が そう呟くと その銀髪はのっそり立ち上がって 土方のほうに近づいっていった。


「バレた?」


そこにいたのは 万事屋の 坂田 銀時だった。
銀時は 頭をポリポリ掻いている。


「ッ.... テメェ いつからそこにいた?」


「大串くんが`辛ェ'って言ってたあたりかな」


つまり 最初からそこにいたということだ。 もちろん さっきまでの呟きも全部聞いていたのだろう。


「ッお前最初か「それ」」

土方の言葉は途中で 銀時に遮られた。


「それ 拭わなくていいの?」


銀時が指さすのは 土方の頬についた 涙のあと。


「...うるせぇ」


急いで 土方は袖で涙を拭った。

(なんでよりによって コイツに見られるなんて)

もともと 強がりな土方だ 誰かに涙なんて 見せたこともない。 それが 会えば喧嘩ばかりのこの男に 見られてしまった。

この男は何を考えてるか読めない。目もいつも 死んだ魚みたいな目をしてる。今だって 何を考えてるか 見ただけじゃわからない。


「いいの? 行かなくて」


「余計なお世話だ それに 今は総悟がいる」


「...まぁ その顔じゃ行けないか」


「....テメェ」


「でも いいんじゃないの?」


「はぁ?」


「たまには 人前で泣いても」


...何言ってんだ コイツ。


「お前 人前で泣くどころか、弱みを見せたこともないだろ?」


....当たってる。人に自分の弱さを見せるなんて今まであり得なかった。


「だから、 俺の前だけでもいいから 少しぐらい弱さみせても いいよ」


一瞬 銀時の赤い瞳が揺らいだ。それは どこか寂しそうな顔だった。




「いいよ 俺の前だけでは強がんなくても」




初めてだった 他人にそんなこと言われるなんて。

とたん 土方の体から力が抜けた気がした。



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