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□シリンジ
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「なんであたしには奢ってくれない訳?」
あたしだって、情報協力は必要な捜査だと思っている。思っているが、青島くんの場合規模が違いすぎる。
「だってさー」
へらへら笑うあの顔がむかつくの。普段あたしの誘いで苦虫を噛み潰したような顔をするのに、あの情報提供者たちにはそんな顔を見せない訳?
「青島くんがそんなに気前いいとは思わなかったわ」
「普段だってすみれさんに色々ご馳走しているじゃない」
その飄々とした顔嫌い。
いつもと違って、ファミレスのソファーに座る青島くんをあたしは見下ろす。
せっせと伝票をかき集めて「経費で落ちないかなー」なんて呟いている。
って言うか、なんでいつも青島くんの情報収集ってこの手法なのかしら?
「青島くん」
「なに?」
「あたしとご飯行ったときも、経費で落ちないかなーなんて思ってるの?」
「給料前だと一瞬思うときはあるかな」
そう、その表情。
あたしを時々いらいらさせる。別に特別なんて思っていないけど、一応ルールってものがあるんじゃないのかしら。
「そうよね、さっきの綺麗なお姉さんと食事した方が美味しいわよねー『青ちゃん、あーん』なんてやって欲しいじゃない?」
飲んでいたお冷やが器官に入りそうになったって知ったこっちゃない。
「すみれさん、嫉妬?」
は!?
「すみれさんからの嫉妬かぁ。ぞくぞくするねぇ」
視線は手元の伝票。
あたしなんて見向きもしない。
でも、それでよかったかもしれない。
「よし、終わり」
青島くんが腰を上げたので、今度はあたしが腰掛けた。
「ねぇ、お腹減った」
まるで駄々っ子。
その飄々とした顔が嫌いなのよ。なんでもわかってます、みたいな表情嫌い。
でも、嫌いだけじゃない。
「経費で落とすんでしょ?」
上目遣いで言ってやる。
青島くんは、あたしのこの顔に弱いのは知っている。だから、あたしも使ってやる。
「えー、勘弁してよ」
「今更、千円二千円増えたってかわらないでしょ」
メニューを見ながら言ってやる。奢ってもらえるまで動く気がないんだから。
「いいの?」
少しだけ声色の変わった彼を見上げた。
あたしの肩に手を置いて、耳元に顔が近づいた。
「すみれさんに奢るのは、俺の専売特許でしょ」
そう言い残して青島くんはレジに向かった。
それって…。
そして、こっちに向かって微笑む。
やっぱりむかつく。
「うんと高いの奢ってもらわないと」