§Dream

□*夢小説100のお題*
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完璧なんて。


「つーなーよしっ!!」

今は、10年後の世界へまた戻らなくてはいけなくなる、その前の日。
俺はなんだか落ち着かなくて、一人屋上で、沈んでいく夕陽を見ていた。

柄にもなくたそがれてみたり、色々考えてみたり、
そこに急に聞こえた声、はるかだった。

屋上までの階段を勢いよく駆け上がって、
夕日を受けてオレンジ色に光る髪を揺らしながら、
なぜか嬉しそうに、俺の前まで来る。

「よく俺がここにいるってわかったね」

俺がここにいることなんて誰にも言っていないから、
気付かれないと思ったのにと、微かに笑みを浮かべ、はるかに問う。

「綱吉のことならなんでもわかるよ!大好きだからっ!」

はるかは少しも照れるそぶりも見せずに、そんなことを言ってのける。
それに俺の方が照れてしまって、赤くなりそうになる顔を誤魔化すように、

「じゃ、じゃあ、俺が今何考えてるかわかる?」

なんて、聞いてみる。

「んー。」

はるかは少し考える素振りを見せてから、

「分かったっ!明日のことでしょう?
 明日、10年後の世界に戻ったら、大丈夫かなぁとか、ちゃんと戦えるかなぁとか、
 不安なんでしょ?ね、ね?そうでしょ!?違う違うー??」

なぜか楽しそうに、そう聞いてくる。

はるかはいつでもこうして楽しそうにしている、
その元気を俺に少しでも分けてほしいよなぁとか思う時もあるけど、
これでもはるかは、俺に少しでも元気でいてほしくて、こういう態度をとってくれるのだと思う。

それが分かっているから、やっぱり明日、ちゃんとしなきゃなぁとか思ったりして、
おまけに、はるかが俺の考えていることを見事に当ててのけたので、少し悔しくなって、

「残念、はずれっ」

とか言ってみる。

するとはるかは面食らったように、

「えぇー?はずれなのー?」

と聞いてくるので、

「うん。俺が今考えてたのはね、
 俺もはるかのこと好きだよーってことだよ」

と答えると、たちまちはるかの顔が赤くなるのがわかった。
さっきのお返しというところで、俺の答えは効果てき面だった。

「え、えぇーっ…。ずるいよ綱吉、その答え、あたしには出ませんっ」

悔しがるはるかに俺は、

「嘘嘘、ホントははるかの正解。
 明日のことずっと不安で、はるかが来るまで、ここでずっと考えたてたんだ」

と、自嘲気味に本当のことを話す。

「あは、知ってるよ」

こういう時だけはるかは少し真面目になって、
優しく微笑んで、俺を見つめてくる。

しばらくはるかと視線を合わせたまま無言だった俺は、
そこでそっと目線を空に向け、フェンスに寄りかかる。

「俺さ、恋をすれば何もかも楽しいものだと思ってたんだ、でも実際は、そんなに何もかも上手くいくわけじゃなくって、
 そりゃ今だって楽しくないわけじゃないよ?でもさ、はるかを守らなきゃいけないんだって、みんなを、
 大切な人を守らなきゃいけないのって、凄く、大変なことなんだね」

なんだかしんみりとしてしまった俺の言葉に、
はるかは大人しく耳を傾けてくれている。

夕日はもう沈んでしまって、俺たちを照らしてくれるのは、
雲の隙間から微かに覗く、綺麗な三日月だけになってしまったけれど、
はるかがそっと、俺の隣のフェンスに同じように寄りかかってきて、
温かい温もりを感じることができるので、心が落ち着いた。

「俺はどうすればいいんだろうね、今のままではまだ全然ダメだって、もっと強くならなきゃって思うのに、
 気持ちばかり先走っちゃって、どうしていいのか分からなくて、焦っちゃって、
 もう明日だっていうのに、何もしないまま、頭ぐちゃぐちゃになっちゃって、さ」

「…うん」

「どうすればいいんだろう、俺は」

「どうしたいの、綱吉は」

自問自答で答えの出ない問いをし続けている俺の言葉にも、
はるかはやっぱりいつものように、
でもいつもの明るさに少しだけ影を落として、
それでも優しく答えてくれる。

「綱吉のしたいようにすればいいんだよ。
 大切なのは“どうすればいいか”じゃなくて“何ができるか”なんだと思うよ。
 綱吉の出来ること、あたしはいっぱいあると思う。
 だからさ、そんなに頑張りすぎなくてもいいんだよ。もっと強くなりたいとか、力が欲しいとかさ、そりゃあたしだって思うことはある。
 でも、そんなこと言ってたら終わりなんてないんだよね。なんでも完璧にできる人なんていない、それはいくら努力したって同じことなの。
 だからさぁ、だから、そのぉ…」

と、そこまで来て声を詰まらせるはるか、
上手く言葉が見つからないらしいが、すぐに俺のほうを向いて、

「上手く言えないけどさ、綱吉は綱吉、それでいいじゃん?」

そう、締めくくった。

「俺は俺?」

「そそ」

「うん、そっか」

「え?ちゃんと納得したのそれは?」

二つ返事の俺に、はるかが抗議の声を上げる。

「うんうん!ありがとね、はるか」

慌ててそう言うと、はるかは嬉しそうに、

「いえいえっ!」

本当に嬉しそうに、満面の笑みを浮かべた。

はるかの笑顔は、本当に温かくて、
この笑顔をずっとずっと守りたいって、そう、
前にも思ったことがあった気がする。

「そうそう、綱吉は綱吉なのよっ
 だからさーぁ、綱吉がこんなところでもう沈んじゃった夕日見ながら物思いにふけってるの、
 綱吉らしくないよっ!似合わない〜うふふ〜w」

さっきまでの妙にしんみりとした空気を破るように、
はるかはいつものハイテンションに戻り、
俺が屋上で考え事をしていたことに笑っている。

「はるか、笑いすぎ!」

予想外に笑い続けるはるかに、そんなに意外だったのかぁ、
俺だって考え事ぐらいするんだぞ、と言ってみても、

「あはは〜」

はるかはずっと笑っていて、そのうち俺も可笑しくなってきてしまって、
何に対して笑っているのか、それさえ分からなくなるほどに
笑い続ける俺達。

それは間違いなく、いつもと同じ光景で、
俺は、この光景がずっとずっと続くものだと信じていた。



「じゃあさじゃあさ、最後にもう一個、
 はるかが『似合わない〜うふふ〜』とか言いだすような
 意外なことしてあげる」

そう言うとはるかは笑うのを止めて、

「ん?何何〜?」

と、不思議そうにこちらを見る。

なので俺は少し改まってはるかのほうを見つめ、

―そのままその唇にそっとキスをした。



はるかは俺の意外な行動に、
きょとんとして、そのあとまたさっきのように笑いだすだろう。

その笑顔が――。
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