GS
□2004/11/16 鈴鹿
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←鈴鹿×あなた→
ゆれる。
ゆれる空間。
日曜日の夕方は風が強かった。
それでも。
一人の少女を見つめる鈴鹿には関係なくて。
「キス…させろよ」
臨海公園の大観覧車の中。
鈴鹿の声はかすれていた。
「お前と…キスしたい」
もう一度、言うと。
鈴鹿の向かいに座る少女の頬が、それはもう色を染めるように紅桜色に変わった。
(…ッ)
鈴鹿が息をのむ。
初めて見る表情ではなかった。
携帯の番号を聞いたとき。
告白したとき。
デートに誘ったとき。
今と同じような顔をしていたけれど。
(何度見たって心臓にくる…)
薄紅色の可憐さ。
ふせた睫毛のかすかな震え。
きゅ、と握られた白い両手。
それはたおやかな花のようで。
花開くようで。
(目…離せねぇ…)
と同時に。
トクリ。
トクリ。
鈴鹿の心臓が早くなってきていた。
頭までぼうっとするような。
(…ちくしょう)
鈴鹿はにぎりしめていた拳に力を入れた。
(やっと俺のもんになったってのに……いくら時間がたっても、お前に慣れることができねぇ)
それどころか。
かわいくて。
愛しくて。
触れたくて。
奪いたくて。
(お前のそんな顔見たら…)
「我慢…できねぇ…っ」
観覧車の中でいきなり立ち上がった鈴鹿に少女の瞳が開いた。
おおげさにブレる空間。
それに少し怯えた相手。
その表情はとても。
「だから…そんな顔すんじゃねえよ」
(抑えきかなくなっちまう…)
鈴鹿は少女のとなりに座ると、衝動のままにその体をかき抱いた。
鈴鹿くん…、と。
少女の口からもれる声。
(頭がくらくらする)
腕の中でしなる、華奢な体。
(狂いそうになる)
声の響きが。
抱きしめた体のやわらかさが。
髪が。
匂いが。
もうなにもかも。
「好きで、好きで、どうしようもねえよ…」
うめくように唇からもらして。
鈴鹿は両手で少女の頬を包みこんだ。
上向かせて。
じっと見つめて。
触れる指に力がこもりそうになったとき。
ふわり。
少女が嬉しそうに笑った。
花がゆっくりと咲きひらくような、やわらかい笑顔。
(…ッ)
鈴鹿の動きが止まる。
眉がつらそうに、ゆがむ。
(いつだってお前のそんな無垢さが俺を不安にさせる)
少女を好きだということ。
次第に惹かれて。
目が離せなくなって。
鈴鹿がはじめて自分から思いを伝えた相手。
けれど。
(このまま突っ走ったら…泣かしちまうんじゃないかってビクビクしてる)
獣のように少女を喰いたい。
めちゃくちゃにして。
自分を刻んで。
とじこめて。
(でもそうしたらお前が壊れちまうから)
今は我慢する。
(本当にお前が、お前だけが大切だから)
ゆっくりと愛したい。
「目、つぶれよ。見られてたらできねえよ」
鈴鹿は笑うことができた。
ゆるゆると。
少女がまぶたを閉じる。
黒い、蜜でぬれたような睫毛。
(ああ…)
見惚れながら、口づけた。
(どうか)
自分の熱さが少女に伝わりませんように。
(だけど)
自分の想い伝わりますように。
「…俺はお前が好きで、好きで……たまんねえ…」
鈴鹿の指がこれ以上もなくやさしく動いて。
ぎゅっと少女を抱きしめた。
◆fin◆
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