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□2005/01/04 葉月×姫条×氷室×尽
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「葉月」
「…ん?」
「時間あるか? 少し話したいことあんねん」
帰りがけの教室。
葉月に声をかけたのは姫条だった。
「…話?」
意外な相手に声をかけられたものの、それを表情に出すことのない葉月がふりかえる。
「せや。…折り入って、話したいことがあんねや」
「…………」
『折り入って』の部分に特に力を込めて、姫条が葉月を見据える。
葉月も視線を反らさずに受けてたつ。
二人の間に生まれるピリピリとした空気。
教室に残っていた生徒達の帰り支度が自然と早くなった。
美形二人が向かい合う姿は圧巻と言えたが、居合わせた人々の気持ちは一様に。
関わりたくない。
それにつきる。
氷室がその場についたとき、二人のしかいなかったのは当然の結果だろう。
「…用とは?」
現れた氷室を、姫条は軽く微笑みながら右手で優雅に教室へいざなう。
二人に背を向け、ぴしゃりと引き戸を閉めた。
「このメンツ見たらわかるんと違いますか」
言いながらふりかえったその顔に笑みは消えていた。
挑むような挑戦的な目で葉月と氷室の前に立つ。
「俺は本気であの子が好きや。ここで宣戦布告させてもらうで」
強い口調。
「…俺も本気だ」
葉月がやんわりと続く。
姫条の瞳がわずかに見開いた。
「へえ…自分がそこまで意思表示するやなんて珍しいな」
「…誰にも渡さない」
葉月がもう一度、念をおす。
ふ、と姫条が笑った。
「で、センセーは?」
「……………」
氷室は眉を寄せている。
「あれれ?センセーは好きなんやないんですかぁ?なんや〜、俺の勘違いだったんかな〜」
芝居がかったセリフ。
「………まったく。子供はタチが悪い…」
氷室は深いため息をついた。
「恋は素直なほうが有利やと思いますけど?」
姫条がにやりと笑った。
「…フ」
一瞬目を見開いたものの氷室も浅く笑う。
「そうだな。私も本気だ。彼女が欲しい」
ふう、と姫条が息をはいた。
「なんや皆本気やんか。なら言うことあらへん。お互い頑張ろうや」
急にやわらいだ姫条の声音に、氷室が片眉を上げる。
「…それだけのために君は私を呼び出したのか?」
「そうですけど?」
「…時間の無駄…」
葉月にまでつっこまれて、姫条はおいおい…という顔をした。
「自分らそう言うけどな。あの子が誰を好きなんかわかってんの?」
「「……………」」
黙る二人に「ほらな」と姫条が苦笑いする。
「センセーの課外実習には必ず行くし?」
そして氷室を見る。
「私は葉月と公園にいるところを目撃したが」
氷室が葉月を見る。
「俺は姫条と買い物してるの見た…」
葉月が姫条を見る。
沈黙。
「ほんま、誰がすきなんやろ…」
「我々以外に異性の知人はいないようだが」
「…誰も興味ない…とか」
「コラァ、葉月!そういうんは思っても言わない!」
「……………」
大の男が、しかもそろいもそろって美形な彼らが求めるのはたった一人の少女。
彼女はいったい誰を好きなのか。
いずれにしてもその心を射止めることができるのは一人だけ。
ここから三人のバトルが始まろうとしていた。