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□2005/03/16 姫条
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→奈津実×姫条←
あんたは誘えば遊んでくれて。
話してくれて。
悪態つきながらも、最後は笑いかけてくれる。
優しいよ、優しい。
姫条は優しい。
そりゃあ…どんな女の子にもいい顔するのは嫌だけど、冷たい男よりずっといい。
女の子のことよくわかってて。
気持ちをくんでやれて。
好きだよ。
友達として傍にいれることが多くなって、うかれてた。
…でもいくら頼んでも部屋には入れてくれなかったね。
「好きな女しか入れへん」
なんて、ぜんぜん悪気のない顔で笑って言うんだ。
わかってる?
その一言がどれだけ私の胸をえぐっているか。
最近はいつもあのコの話題ばかり。
入学式からしばらくして「むっちゃかわいい子ナンパしたで!」って嬉しそうにあたしに話したの、まだ覚えてる。
正直その時は気にしてなかったんだ。
姫条はいろんな子と仲良かったし。
…でもあのコだけなんだよね。
姫条が自分から声をかけた女のコ。
それをあんたから聞かされた時、恋って残酷だと思った。
だってあの子は最初から姫条に選ばれてる。
スタートからして違うんじゃ、どうしていいかわかんないよ。
ライバル宣言したって虚しいだけで。
好きなのに。
好きなだけなのに。
相手も自分を思ってくれる確率ってどこまでも低い。
「切ないなあ」
「何がや?」
「き、姫条!?あんたなんでいんの!?」
「自分なあ…お客様にその態度はどうなん?」
「…あ…」
そうだ、ここはバイト先。
あまりにヒマでぼんやりしてしまった。
「なによ!あんたなんて客でもなんでもありませ〜ん。邪魔よ、邪魔!」
「…ほんまに」
ほうっと、おおげさに姫条がため息をつく。
「かわいないなあ」
「…………」
言わないで。
そんなこと言わないでよ。
好きなんだってば!
あんたが好きなんだってば…っ!
わからないの?
あんなに女のコと話すのに、肝心なとこがわかんないなんてバカみたい。
…そんなところも好きなのに。
すごく好きなのに。
あたしとの未来はあんたにはないんだね。
それが無性に悲しい。
今ここで泣いたら、あんたは優しいから慰めてくれるはず。
けど、そんなことしない。
虚しいことはしたくない。
でも…。
でも…。
諦めるなんてできないから。
「…具合悪いんちゃう?平気か?」
姫条の言葉に頭を振って笑った。
「平気」
「…そうか?あんま無理すんなや?」
そう言って帰る背中を見ながら、あたしの心は決まっていた。
(ジャマ、させてもらうね)
バイトをあがった後、あのコに電話した。
一週間後の待ち合わせの約束。
いきなり「クラブ行こうよ」なんて誘ったから驚いてた。
でもあのコは、あたしのどろどろどろした気持ちを知らない。
だから友達のまま、誘いもOKしてくれる。
「…ごめんね」
電話は切れているのにつぶやいた。
携帯を握り締める手が痛い。
「あたしだって姫条が欲しいんだよ…」
あたしはぎゅっと目をつぶった。
一週間後。
それを決行日と決めて。