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□2006/01/02 姫条
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←姫条×あなた→


(あん時はいっそ抱きしめたかったわ)


冬の寒空。
北風が駆けぬける。


(女のコは服装ひとつで変わるもんやし)


けれど、姫条まどかはさくさくとスタンドのバイトをこなしていた。


(そんなんわかってたのにな。あれは不意打ちやろ)


思っていることはいつもと同じ。


(なんで自分はそんなんカワイイわけ?反則やん)


バラ色の髪をした少女のことである。


「姫条、おつかれ」


「へ?」


「もう上がりの時間だぞ」


「あ、ホンマ?」


「おいおい、寒さでボケてんのかぁ?」


「んなわけあるかい。それに今日は寒くないやろ」


「…いや、ふつうに寒いだろ。雪降ってんぞ」


「へえ…気がつかなかったわ」


姫条の答えに、バイト仲間は苦笑いする。


…まったく。


少女のことを考えていれば、寒ささえ感じない姫条である。




元日。
思いきって誘った初詣。
少女を見た瞬間、姫条は息をのんだ。


華やかな振袖。
結い上げられた髪。
紅い、ちいさな唇。


圧倒的だった。


(そこらへんの女とは格が違うわ)


姫条は一瞬でその艶姿にヤラれてしまったのだ。
彼女はその時「美少女」ではなく「美女」だった。


(…しかもド美女)


本来、姫条の好みはキレイ系のおねーさんである。
今まではそんなこと関係なく少女に惹かれていたのだが。


(もうダメや。完全にハマった)


誰にも渡したくないと姫条は思う。


(せやけどなあ…)


正式につき合っていない身で、そんなわがままを言えるわけもなく。


(まめにデート誘うしかないやんなぁ…)


ためいきである。


そもそも、さっさと告白していない自分が失敗だった。


(ホレたときに好きや言うてれば、こんなん悩まなくてすんだわ)


最近は。


本気になるほどに周囲が見えてきてしまった。


姫条が見たのは男の影。


デートの後。
家まで送ったとき、時折かかる葉月からの電話。


校門では教師の氷室と楽しそうに帰る姿をよく見る。


よくよく考えれば。


クールビューティーの葉月を唯一、微笑ませることができるのは少女であり。


あの氷室を課外授業と称してデートに誘わせてしまうのも少女なのだ。


(このままじゃ誰にさらわれても…おかしないわ)


ライバルがパンパない極上の男。


(俺だってイイ男ちゅー自覚はあるんやで?)


けれど肝心の少女の気持ちがまったく見えない。


少女からデートに誘ってくれる。
姫条が誘うと笑顔をくれる。
デート中、上の空だったこともない。


それでも。


姫条は自分が一番だとは思えなかった。


(こんなガタガタなん…はじめてや)


本気で恋をして臆病になった。


誰にも奪われたくない一心で告白しても、断わられた後がこわい。


(フラれたらもう今みたいな関係ではいられないやろ?)


初詣に行くのも。
満開の桜の下で笑うのも。
花火大会で夜空を見上げるのも。


(なくなるんやろ?)


「そんなん耐えられへん…」


姫条が声を出して言ったとき。


バイト先のロッカー室で姫条の携帯が鳴った。


液晶を見ると少女である。


「もしもし」


内心、ドキドキしているのに普通を装ってみる。


『姫条くん? 私』


「なんや、どうした?」


どうした、なんて。


本当はなにもなくても電話がほしいのに。


『明日…スケートに行かない?』


「行く」


即答だった。


本当はじらして少女の気持ちを確かめたいと思うのに、実際誘われてしまえば本音が口から飛び出してしまう。


(だってホンマに好きなんや)


本気の前に駆け引きは通用しない。


『じゃあ明日ね』


「おう。楽しみにしてんな」


携帯を切る。


「スケートかぁ…手なんか握れるんちゃう…?」


知らず知らず姫条の口元は上がっていた。


「あ〜、もう、恋って最悪で最高や」


天井を見上げて笑う。


「卒業まで走るだけやな」


卒業式に告白すると決めて。


「…よっしゃッ」


姫条はロッカー室を後にした。



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