NOGS

□オリジナルなひまつぶし
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飛び出すカレンダーに。


爆発音のする花に。


卵の殻をこまかく割る機械。


博士の発明はへたくそで、いつも学者仲間に笑われていた。


「あいつの発明はキテレツで役にたたない」


そんなことを言われるのは日常茶飯事で。


「たしかにこれでは学会で賞など取れませんね」


そう言いながら、私は棚に安置された発明品たちに、かるく息をふきかけた。


うっすら積もっていたホコリが舞い上がり、窓からさしこむ朝日の中にさらさらと消えていく。


それをすこし眺めて、私は博士をふりかえった。


「しかもきたない。こんな部屋ではいい発明も生まれません。掃除くらいしてください」


博士の研究室は広い。
老朽化はしているが、それなりの面積を誇る屋敷の中でいちばん日当たりのいい場所にある。


けれどそんな最高の空間も、博士もかかっては意味をなさなかった。


本棚におさまりきらず、そこら中に積まれたぶあつい本たち。
窓際に置かれた大きな机には様々な薬品のビンとなにに使うかわからない実験道具が山のよう。


しかも床には実験途中でなにか液体をこぼしたのか、いくつものシミが点々としていた。


「たしかにここに来た時は、床は見事なオーク材だったのに。本当に研究バカですね」


私が床を見ながら言うと、絶妙なバランスで積み上げられた本の影から、博士がむっとしたような顔をだした。


「君にまで言われるとは悲しいね」


ぼさぼさの黒い髪に、よごれて半透明になったメガネ。
白衣も「白い衣」とは言えないグレー色だった。


「私は娘同然に育ててもらったからこそ、言えるんです」


「・・む。たしかに君の意見は貴重だが・・」


「いいかげん、その格好をどうにかしたらどうです。まるでドブネズミです」


「・・・君ははっきり言い過ぎる」


博士はぶつぶつ文句を言いながら、薄汚れた白衣を脱いだ。


それを受け取って、私は持っていた真っ白なバスタオルを渡す。


「ついでに入浴をどうぞ。湯をはってあります。朝食はどうしますか。食べてから寝ますか?」


「いいや。そのまま寝る。眠い」


「そうですか。では起きたら一緒に食べましょう」


そこで博士がかるく目を見開く。


「君は食べないのか?」


「ええ。食事は博士とするほうが経済的ですから」


「・・・・・・・・」


博士が黙りこむ。


「なんです?」


「君はもっと自分の健康に気をつかうべきだ。私につき合っていては体を壊す」


「わかっているなら博士こそ自重してください」


「・・善処しよう」


「それでは朝食はどうですか」


「いや・・私は、朝はどうも食欲が・・あ。君も知っているはずだろう」


博士の言葉に私は頷いた。


「そうですね。ですから、私も博士が目覚めた後に食べます」


「・・む」


博士はへんな顔をして、また黙りこんだ。


私もあえて会話はせず、次の言葉を待つ。


沈黙が数十秒。


博士が折れた。


「・・・・一緒に食べる」


「わかりました」


「あ、待ちたまえ」


キッチンに向かう私を博士が呼び止めた。


「なんですか」


「食材はあるのかな。突然食べると言われても君も朝から忙しいだろう」


「心配ありません」


「ん?」


博士が首をかしげる。


「さきほどの会話は予測済みです。昨夜から博士が朝食をとると前提に準備は済ませておきました」


よどみなく答える私に博士は眉をひそめた。


「君は・・・・・」


「行ってらっしゃい」


言葉で切るようにたたみかける。


「まったく・・」


博士はため息をつきながら部屋から出て行った。


ぎしぎしと、木の床が鳴っていた。
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