さんぷる
□約束(橙赤)
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別々の仕事が終わり、着信1件。
かけ直すと、弾んだ声が電話口から聞こえてきた。
今日はヤスとロケですもんね。
テンションも上がるでしょ。
そんな嫌味な言葉が喉までせり上がってきて、慌てて飲み込んだ。
今日は、すばるくんと出かける約束をしてる。
こんなくだらない嫉妬なんかで、楽しい時間を壊すわけにはいかないから。
そして僕はまた、偽りの笑顔で話す。
電話なら、無理に笑顔を作る必要なんて、ないのにね。
『安田がな、行きたいとこあるってしつこいねん!すばちゃんは予定あるって言うてんのに』
なんで、そんな嬉しそうな声、出すん?
ヤスのことで。
「ヤスと約束したなら、行ったらいいですよ」
すっと心が冷えて、止める間もなく言葉が滑り落ちた。
「僕もそれなら予定入りますし」
自分のもののはずなのに、感情の無い声だ、なんて他人事のように思う。
『はぁ?じゃあ嫌々付き合ってたんか』
一気に低くなる、すばるくんの声。
本気で、怒ってる。
「そんなん言うてないじゃないですか」
『そういうことやろ!』
「…」
温度差に、うんざりする。
むこうの温度が上がるほど、こっちは下がってくような。
違う、の一言が伝わらない、もどかしさ。
『聞いてんのか!あぁ?!』
あかん、と思うと同時に、すばるくんの気配が消えた。
気付くと、携帯のディスプレイは真っ黒になっていて。
途中で切ってしもた…と、また自己嫌悪に陥った。