Long Dream Story

□そんな話は聞いてません。
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彼方と静雄が部屋に入って数時間後、二人は静雄の作った夕食を食べていた。
小さなテーブルに向かい合うように座る彼方と静雄。
凝ったものではないが、静雄が彼方の為に一生懸命作った料理を、ぼんやりとした眼差しで無表情で口に運ぶ彼方とそんな彼方の様子をじっと見守る静雄。


「あー…、美味いか?」


沈黙の続く食卓に耐えきれなくなったのか、静雄は彼方にそう問うた。
彼方は一瞬、キョトンとした表情を浮かべた後、小さく笑った。


「不味かったら食べ…ません」


しゃっ!
てことは、美味いって意味だよな。
何か分かりにくいけど…。


彼方の言葉に機嫌を良くする静雄に、彼方の不味かったら食べないという言葉には、それだけの意味しかないのだと教えてやる者は、この場に存在しない。
彼方には自分の言葉が他人にどう取られようが興味はないし、もとより、解説をしてやるような優しさは持ち合わせていないのだ。


その後、彼方と静雄は黙々と静雄の作った夕食を食べた。


「ごちそうさまでした」


なんつーか、こういう自然な言葉を聞くと、コイツが俺に使ってる敬語の不自然さが際立つな……。


「食器片付け、ます」


彼方は静雄から反応が無いことに僅かに苛立ちながらも、自分の食器を酷く丁寧な仕草で重ねてゆく。
その動作や彼方の表情に苛立ちを表す物は一切見えない。
自分の食器を重ね終えた彼方は、静雄の皿へと手を伸ばす。
しかし、その手は静雄の声と手に制された。


「いいって。俺がやる」


静雄は手早く自分の食器を重ねると、彼方の重ねられた食器に手を伸ばし奪い去ってしまう。


「このくらい、します」


そう言いながらも、彼方は抵抗することなく、静雄に食器を渡した。
彼方から奪った食器を持ち立ち上がった静雄は、それらをキッチンの流しに持って行った。
彼方はとたとたとその後を追う。



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