Long Dream Story
□そんな話は聞いてません。
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「でも、別に大丈夫…ですよ」
既に痛みもなく、忘れかけていた程度の傷に、今更手当てなど必要ないと思っている彼方はそう言った。
「駄目だ。消毒だけでもしとけ」
しかし、静雄は彼方の言葉を否定し、救急箱を探して部屋の中を歩き回る。
そんな静雄をぼんやりと興味無さげに見ていた彼方は廊下から一歩も動かなかった。
私が大丈夫だって言ってるのに。
なんな訳。
あの平和島静雄に保護者気取られても、気持ち悪いだけなんだけど。
「おい、あったぞ。手当てするから来……い…?」
救急箱を見つけた静雄が部屋の中から顔を出し彼方を呼ぶ。
しかし、廊下の真ん中に突っ立ったまま俯き動こうとしない彼方の姿に静雄は困惑した。
「彼方?どうした」
静雄はゆっくりと彼方に近付き、目線を会わせるようにその顔を覗き込んだ。
バチリと音がしそうな勢いで合わされた視線とは裏腹に、彼方の眼差しはいつもと同じように眠たげだった。
「平和島、さん。手当ては必要ない…です」
そして、どこまでもいつもと同じように淡々と静雄の行為を断った。
「いや、ダメだ。菌が体内に入って、病気になるかもしれねぇだろ」
彼方はそれこそ今更だろうと思った。
しかし、言葉にはせず、彼方にしては珍しく根気強く首を横に振った。
「ひとつ言ってお…きたいのですが、平和島、さんに心配されても嬉しくない…です」
静雄の目が大きく見開かれた。
幼い容姿をした少女は、表情を変えることもなく背の高い男の目を見返す。
「……でだ」
俺に心配されるのが、迷惑ってことだよな…。
…んでだよ。
俺は好意から……。
「そもそも、この傷がついたのは、平和島、さんのせい…でしょう。実際に傷をつけたのは、臨也さんだとしても」