Long Dream Story
□そんな話は聞いてません。
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バキンと音を立てて、静雄が持ってきた救急箱の取っ手は壊れた。
救急箱はそのまま床に落ちる。
彼方は驚き、咄嗟に静雄の顔を見上げた。
は?
何で、この人、こんなに怒った顔してるわけ?
自分が発端でないとでも言いたいの?
信じられない。
平和島静雄が、私を置いて走り出したりしたから、私が平和島静雄を追いかけて、あの場所に行くことになったんじゃない。
どう考えても理不尽な思考だが、彼方は当たり前だと信じている。
だから、彼方は、眠たげに半分閉じられた瞳のままではあるが、真っ直ぐに静雄を睨み上げた。
「平和島、さんが、臨也さんと喧嘩なんか始めたから悪いん…でしょう」
「黙れ」
地を這う程に低い静雄の声と殺気のこもった睥睨。
静雄から放たれたそれらに、彼方は体を強張らせた。
しかし、体の強張りはほんの一瞬で解け、彼方は胸の中に怒りと悔しさを溢れさせた。
「どうして、私が平和島……、さんに睨まれないといけない……んですか」
わずかにつり上がった眉を隠すことはせず、彼方は正面から静雄を見返した。
ギチリと静雄は奥歯を噛み締める。
「睨んでねえ」
歯の隙間から押し出された声は、怒りを圧し殺したように震えていた。
彼方がそれに怯える様子はない。
ただ怒りが膨れた。
「納得でき、ません。そんな顔してるくせに」
静雄を詰るように彼方は言葉を発する。
その瞬間、静雄の手が彼方に伸びた。
彼方は咄嗟にその手から逃れようとしたが、易々と胸ぐらを掴まれた。
彼方は再び身を固く強張らせた。
静雄の方に引き寄せられ、そのまま彼方は静雄の後方へと投げ飛ばされた。
あまりに軽々と。
過ぎ去る景色と、静雄の何故か愕然とした表情を彼方ははっきりと見ていた。
悲鳴をあげる間もなく、彼方の体はドサリと落ちた。
それはいつも彼方が使っていたシングルベッドの上だった。
壁に沿うようにして置かれたベッドだったが、彼方が壁に衝突するようなことはなかった。
それは、静雄が加減したからか。
「彼方っ!!!」
先程、怒りに任せて彼方を投げ飛ばした人物とは思えないほどに、静雄が彼方を呼ぶ声は切羽詰まっていた。