Long Dream Story
□そんな話は聞いてません。
6ページ/9ページ
「何でって…。俺、彼方がんな思い詰めてるってことも知らず、お前を家に帰そうとしなかったから、よ…」
俺はわかってなかった。
気づいてもやれなかった。
まだ、未成年のこいつが両親から離れて、一人で知らねぇ奴、しかも、俺なんかと暮らしてて、帰りたくならない訳がなかったのによ…。
俺と普通に接する同居人が出来て浮かれてたせいだ。
「それは、別に平和島…さんのせいじゃない、です。私が、平和島…さんに頼んだのは、ここに置いてくれってこと、です。家に帰してと頼んだ訳じゃない」
真摯さという点では、何者にも負けない彼方の視線は、人の心の奥底までその言葉を届ける。
彼方の言葉には今、嘘偽りがないから余計に。
「急に泣いたりしてごめ…んなさい。もう、大丈夫、です」
彼方は静雄の首に回していた腕をほどき、少し疲れたように微かに笑った。
「疲れたから、ね…ます。おやすみなさい。平和島、さん」
「お、おいっ。寝る前に首の傷手当てしねぇと」
「いらない、です……」
瞳を閉じ、すぅと寝息をたて始めた彼方を静雄は困ったように見下ろした。
あまりに無防備で、あまりに安心しきった様子。
それは、劇的な彼方の心境の変化を如実に表し、静雄にそれを伝えた。
一体、何が彼方の心情を変えたのか。
静雄は戸惑いつつも、彼方をそっと抱き上げ、真っ直ぐに布団に寝かせた。
そして、先ほど自らが壊した救急箱を拾い、彼方の下へと戻る。
静雄は、彼方の細い首筋に手をのばそうとして、止まった。
真っ黒なセーラー服が捲れ、ちらりと彼方の白い肌が覗く。
白い肌に僅かに侵食するどす黒い青。
なんだ?
静雄はセーラー服に手をかけ、腹の部分を捲り上げた。
僅かに見えていただけのどす黒い青は、左の脇腹からへそ近くまで彼方の腹の約半分に広がっていた。
それは、シミやほくろ等ではなく、明らかな打撲痕だった。
「なっ!?」
痛々しいその痕に静雄は息を飲む。
彼方にはあまりに不似合いな痕。
つけられてから、そう日が経っているようには見えない。
誰だ。
彼方に傷をつけた奴は…。
怒りに我を忘れ怒鳴りそうになる自分を必死に抑え込む。
彼方の寝顔はあくまで穏やかだったからだ。
臨也の野郎かっ!?
……いや、アイツじゃねぇ。
そんな様子はなかった。
ってことは…。
「虐待、か…。もしくは、いじめ…」
にしては、傷が真新しすぎないか。
少なくとも、彼方が静雄の家に現れた三日前以前のものには見えなかった。