** 短編 **

□◆ 捩眼山夜話 ◆
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◆ 捩眼山夜話 ◆





……牛頭、馬頭、どうした?
はは、暑気払いに涼しくなる話、か……。

……そういえば、雪女と致したことが何度かあってな。

いや、氷麗殿ではない。母君の雪麗殿だ。
雪麗殿は鯉伴様にぞっこんであったことは知っておろう。しかしながら、山吹乙女様の器量をお認めになり、自ら身をお引きになられた。

雪女という妖しは、情が深い。その情の深さも畏のひとつ。間違った相手に情を掛ければ殺しかねないほど、深いものだ。だから雪女は、貞節を貫き、無用な畏を掛けぬようにする。

しかし、妖しとて、女の業を受かった者。たまには情を交わす相手が欲しくなるのもまたしかり。そうした折に、幾度かお相手仕ったというだけのこと。

雪麗殿……か。氷麗殿もそうだが、雪の肌、真綿の髪……いや、今の氷麗殿より、一層深く透明な白肌であられた。

……なに? 熱い話ならいらぬ、か? ふふ、おぬしら、まだまだ幼いのぅ……

絹糸のごとき髪をゆるりゆるりと撫でれば、すでに瞳は薄氷がかかり、それがなかなか艶やかでな。帯を緩め、衣を肩からはずし、項に舌を這わせる頃になれば、白肌もより冴えてゆく。それは美しい光景であった。

……いや、艶は艶、あくまで雪麗殿はひんやりとしたままなのだ。いらぬ推量をするな。

雪女の畏には、この私でも恐怖を覚える。劣情のままに組み拉けば、畏により、こちらは一瞬で氷漬けじゃ。
かといって必要以上に手心を加えれば、情が伝わらざることに怒ってまた氷漬け。
溶かさぬように、凍らされぬように、互いの畏の駆け引きの醍醐味こそが、雪女との閨事であるのよ。……なぁ、おぬしらには百年早いだろう?

項を吸い、胸の真珠を吸い…とゆっくりと進めてゆくと、雪女の息に雪が交じる。それはそれで婀娜なものだが、少々強く責め立てると、混じった雪が吹雪になるのも、また風情がある。

やがて秘丘に手を伸ばせば、そこも錦糸か真綿かという儚く上質の手触り。そ、と撫でれば、すでに淡雪の蜜がしとど。淡雪を味わい、己が熱を少々冷ませば、半氷の眼が早く、と促すのもまた良い。

……ここで急いては、雪女の畏を買いかねぬからの。舌や指で、ゆっくりと蜜壺を馴らすのが得策であろうな。
少々の熱を込めつつ、溶かさぬよう、凍らされぬよう…この加減が慣れると少々厄介ではあるが、まあ、それも愉しみのうち。
そうそう。何百回も逢瀬を重ねるならば別であろうが、たまの愉しみなれば、くれぐれも花核に触れるでないぞ。あれは過敏すぎる。下手に熱を与うれば、思いもせぬ畏が出ることもあろう。

蜜壺が降り積もったばかりの粉雪のように柔くなれば、そろそろ頃合い。
楔をゆっくりと納め、抜き……氷変を感ずれば強めて溶かし、べた雪を感ずれば弱めて雪を締め……そうこうしておるうちに、やがて吐く息が吹雪となり、蜜壺は根雪となるな。そのあたりで、一気に熱を放ち、すぐさま身を整える。

こちらが身を整え終わるあたりで、雪麗殿の気も整う。生まれたままのお姿で立ち上がる雪麗殿の蜜壺から、粉雪が舞う。それを懐紙で受け、ご挨拶申し上げたのちに寝屋を辞す…と、かような感じであったか。

……うむ、そのとおり。蜜壺から舞い落ちる粉雪は、己が精である。雪女と致すということは、そういうことなのだ。今宵のような生ぬるい風の吹く夏には、格別の趣向であったな。

……いや、氷麗殿の父君は、私ではない。何を血迷ったことを。真におぬしらは幼いのう。
雪女は遠野の妖しであり、産土でもある。半妖半神の身に、元ヒトであった私の、獣の精が宿ることなど、ない。
……そうよなあ、遠野の妖しであり、産土であり、仔を成すに値する妖力があり、水の精を持つ……といえば、愚鈍なおぬしらにも、察しがつくのではないか?

(了)




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「雪女ってどうやって増えるの?」という素朴な疑問が出発点のNL話でした。
ラストシーン、牛頭丸・馬頭丸の思いっきり引いて青くなった顔を見て、ニヤリとする牛鬼様の図を思い浮かべていただければ、とw
首無好きなんですけど、テクも経験度もナンバー・ワンは牛鬼様だ、と勝手に思っておりますw




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