血の運命の部屋☆第二部☆

□着せ替え人形
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「ゾォくん」

少しだけ扉が開いたかと思うとそこからジョルノがひょっこりと顔を出す。
今日は確かどこかに出かけるからシャワーを浴びておくのだと言っていた。

「その呼び方やめろって何度言ったらわかんだよ」
「いいじゃあないですか僕だけの特権なんですよ?」

イルーゾォが何度もやめろと言っているのにやめる気配がない。その呼び方が気に入っているらしく、ジョルノは小悪魔のような笑みを浮かべる。どうせ何を言ってもやめないのは分かっているので追求もそこそこに要件を聞く事にした。

「……それで、なんだよ」
「洋服を選んで欲しいのです」

至って真面目な思いつきでジョルノはイルーゾォに頼んだ。思っていた斜め上の頼み事である。持っていたコーヒーをテーブルの上に置く。羞恥心がないのか肌着のままパタパタと部屋の中を歩くジョルノからそっと目を逸らす。いくら裸は見慣れたとはいえ流石に年頃の少女が肌着のまま部屋を歩き回るのは宜しくない。

「はぁ?それぐらい自分で……」
「貴方に着飾って欲しくて。センスいいですし。ダメですか?」
「……」

冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出したジョルノが1口2口水を飲んでから、頼む。断る理由もないし断っても連れていくだろうと思ったイルーゾォは無言で肯定した。ジョルノにバスタオルをそっと掛けてクローゼットに向かう。肌着のまま目の前をチラつかれてはあまりにも綺麗で危うくて目の毒だ。

──
いつ見ても大きすぎるクローゼットを開くと、ドレスやら私服やらバッグやらがぎっしりと詰まっている。そこはもはや部屋とも言うべき広さをしていて、実際部屋である。あまりにも量が増えてきたため改築したのだった。
ジョルノはこんなに要らないのにと言うが、いわゆる貢物と言うやつである。トリッシュがあれも似合うこれも似合うと持ってきたことがはじまりで、ことある事に誰もがあれもこれもと買ってくるようになった。それを咎める訳では無いのだが正直困る。自分で買ったものなら捨てようと思えば簡単に捨てられるが人から貰ったものは如何せん捨てにくい。
リボンやフリルやシルクやリネンや……多種多様の服が目に飛び込んでくる。棚には丁寧に磨かれた靴が置いてある。宝石があしらわれたルージュしか入れられないような小さなバッグも壁に掛かっている。そんな女性にとって夢のような宝箱の中に2人は立っている。

「今日は先方の要望で会食です。フランス料理だそうですよ」
「1人か?」
「まさか。ミスタがいますよ」

護衛も付けずに行くとしたら大惨事だ。そもそも彼らが許すわけない。イルーゾォだって許すわけがないのだが。ミスタがいるならまぁ安心だろう。腕の立った奴だしジョルノ自身が一定以上の信頼を置いている。

「だろうな。あんまうろうろすんなよ」
「む、子供じゃあないんですから……それで、僕はどっちを着たらいいんです?」

フリルのあしらわれたドレスと身体に沿って作られたタイトなドレスを持ってイルーゾォに問いかける。

「右手側の方が可愛い」
「ヒールは?」

少し間を置いたあとで応えると、ドレスに足を通す。背中のチャックを締めるようにイルーゾォに促すとジジ…と噛み合う音を立てて締まる。裾を丁寧に直すと今度はヒールについて問いかけられる。クローゼットの奥にはシューズの段があってずらりと高そうなシューズが並んでいる。

「上段左から3番目」
「これ?」
「そう」
「相変わらず女物を選ぶセンスありますね」
「お前のせいでな。座れよ」

ハイヒールをイルーゾォに渡すと、ジョルノは鏡台の前にある高そうな椅子に腰掛ける。イルーゾォの前にピンとつま先を差し出すと、そっと足先を支えてつま先から順にヒールを履かせられる。ジョルノはこの瞬間が一番好きだ。つま先から綺麗になっていく感覚。
初めて着替えを手伝わせた時、彼はどんな反応をしたか。嫌々ながらに引き受けてくれた彼は見ていて楽しいものだった。それでもちゃんと選んでくれたのだから根は真面目というか惚れた弱みというか。
彼の選んだ服、彼の選んだシューズ、彼の選んだ髪留め……どんどん彼の色に染まっていく気分は何とも言えないものだったのを覚えている。段々慣れてきた彼も途中からジョルノという高価な着せ替え人形で遊んでいるかのようだった。

「はい……ふふ、やっぱり貴方に履かせてもらうと心が踊りますね」
「ドSかよ。人使いの荒い」
「貴方も好きでしょう?」
「……」

ヒールを履くと今度はイルーゾォにブラシを渡す。これも慣れたもので、イルーゾォは丁寧に優しく髪を梳かしてくれる。手先が器用だからかイルーゾォは三つ編みを編むのが得意だった。……ジョルノが毎回イルーゾォに頼むから必然的に慣れていったとも言う。

「小物はどれにしますか?」
「これとこれ」

小さなチョーカーとネックレスを手に取りジョルノの首に這わす。照明を反射して小さく光るルビーが綺麗な細い金のネックレスとシルクの黒のチョーカー。どちらも今こうして支度を手伝う男が贈ったものである。

「貴方って本当にチョーカーとかネックレスとか好きですね。この前贈ってくれたのもチョーカーでしたし……なんでですか?」
「……深い意味はないぞ」
「嫌ですね、深い意味しかないくせに」

束縛、独占……そんなところか、それともこいつを手に入れたという見せつけか。とにかくイルーゾォはジョルノの首に見せつけるように自分の贈ったものを付けさせることを好んだ。首輪でもつけたつもりなのだろうか。わかりやすい愛情表現だ。そんな不格好な愛情表現もジョルノは甘んじて受け入れる。そんな表現しか出来ない彼が好きだ。愛らしいと思う。
だからジョルノは着せ替え人形になる。

「分かってるなら聞くなよ」
「ちょっとした意地悪ですよ」

小さくパチンと音がしてネックレスが繋がれる。支度が終わったジョルノは立ち上がって姿見の前に立って確認する。鏡台に置いてあるルージュを一塗りして鏡の奥に映るイルーゾォを見る。見とれているとも興味がなさそうとも取れる様子にクスリと笑んだ。

「やっぱり貴方ってセンスがいいですね」
「そりゃどーも」

ドレスを翻してイルーゾォの前までくると犬でもあやすかのように優しくイルーゾォの頬を撫でる。もちろん犬扱いされているのは分かっているのだが嫌とは思わない。むしろ心地が良いと思ってしまうのでもはや末期だ。薄いカーディガンを羽織らせるとありがとうございます、と微笑んだ。

「では行ってきますね」
「いってこい」
「お行儀よく待ってるんですよ?」
「犬か俺は!お前こそお行儀よくしてこいよ」
「勿論です」

メイクが落ちないように軽く口元にキスを落とすと、彼の主人である最愛の人形は上機嫌に部屋を出ていった。

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