血の運命の部屋☆第二部☆

□天気は無難
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初めまして、と微笑んだ少女は自分のことをジョルノと名乗った。なるほどいい名前である。ジョルノは未だ固まる俺に微笑むが、警戒心というものがないのかと不安になる。ずっと会釈をしたり手を振ったりしていた訳だがそれでも警戒心の無さが伺える。
そんな訳で本格的に俺とジョルノは知り合った訳だが何もそこから進展があるわけでもなく、今まで通りにこれからの関係が続いていくだけであった。窓から覗けば手を振って、建物から降りれば軽く会話をする。相手の素性はしらない。俺も教えていない。あやふやなことから始まった関係は曖昧なまま続いている。
ただ変わったことといえば、俺が玄関に降りることが増えたこと。
目の前の喋るヴィンテージドールは今日もその薄い色素の肌をほんのりと暑さで赤く染めながら俺と会話をする。今日は暑いから熱中症には気をつけるんだぞと忠告すると、少しキョトンとしてから「ありがとうございます」と礼儀正しく感謝を述べた。
出会い頭で天気の話をするのはイギリス人だけ、イギリス人が天気の話をするのは雨が多いからと言う話はよく聞くがその話は嘘だと身をもって知った。
別にイタリア人も出会い頭に天気の話をする。ていうか天気の話しかしない。天気の話というのは万人共通で会話ができる話題である。共通点が見つからず素性も分からず、ましてや年齢も離れていて尚且つ男女の組み合わせになった時、真っ先に出てくるのが天気の話なのだ。
だから、俺とジョルノは天気の話しかしていない。数分の中で少女を知るのは難しい。だが、そのうち分かれば良いと思っている。
……そもそも自然な会話の持っていき方を俺は知らない。

雨が降る。天気予報では降らないと言っていたはずだが。俗に言うスコールである。行きはあんなに晴れていたというのに。
窓から見ていると打ち付けるような雨が降ったりやんだりを繰り返している。ジョルノは大丈夫だろうか。こんな雨に晒されては健康的であってもバカであっても風邪を引くだろう。
「あいつ傘持ってたか?」
と、まあ噂をすればなんとやら本人のお出ましである。この雨の中走っている。濡れ鼠でとてもそのまま見逃す事は出来ない。俺は傘とタオルを手に取ると急いで階段を降りる。行ってしまう前に渡せればいいのだが。
「あ……屋根、お借りしています」
階段を降りた先入り口のすぐそこにいた。張り付く衣服が気持ち悪いのかパタパタと軽く仰ぎ、未だ雨をふらせ続ける空を見ている。足音に気づいたのか俺の方に視線をずらすと、申し訳なさそうに会釈した。
雨の日のジョルノは晴れた時よりも少ししおらしくて、しっとりとヘタレた髪が顔に張り付いている。服だってベッタリと体に張り付いているからか、少し困っているようだった。何より目のやり場に困る。体全部覆えるようなタオルではないが多少マシだろう。
「拭いとけ」
「え、いいんですか?」
「風邪を引かれたら困る」
平日の楽しみが無くなるから。とは言わないがジョルノの頭にタオルをかけるとへにゃりと笑った。
「洗ってお返ししますね」
「そこまでしなくてもいいぜ」
「いえ、させてください」
丁寧に髪を挟んで水気を切っていくジョルノはタオルを肩にかけ直す。しばらく待ったが止む様子はなく仕方ないとジョルノは俺に言う。
「行きますね」
「待て待て、そのまま行くな。持ってけ」
可愛さの欠けらも無い傘だがないよりはマシである。差し出すと、少しびっくりしてから笑ってくれた。
「ありがとうございます。優しいですね」
「そ、そういうのじゃ……こんな雨の中走って帰らせるのはどうなのかと……」
「そういうのを優しいって言うんじゃあないですか?」
傘を差して雨の中に踏み出す。パシャンと飛沫の音がして、ジョルノは俺の方を振り向く。
「次会った時にお返ししますから」
雨の中去っていく背中を見送った。

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