血の運命の部屋☆第二部☆

□お礼とか
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の日に傘を貸してくれた優しい人。嬉しいことにまた会う口実ができました。いつも手を振ったりちょっとした会話をしてくれる人。名前しか分からないけれど、きっといい人。土日はそこにいないらしくて、平日にしか出会えない。とても不思議な関係です。今日は月曜。傘と洗いたてのタオルを持って……それからちょっとしたお礼のカードを添えて。失礼はないでしょうか。
いつもより少し特別な日。2日ぶりの朝を楽しみに、僕は軽い足取りで彼の元へ向かうのでした。
「おはようございます」
「はよ」
窓の所で立っていたイルーゾォは僕が来たことに気付くとふっと窓からいなくなりました。玄関口からでてきて、僕に挨拶をするのです。
「先日はありがとうございました。助かりました」
「ああ。ご丁寧に」
傘とタオルを渡すと彼は優しく受け取ってくれました。しかし物を貰うのに慣れていない、初めて友人から祝いの品を貰ったかのようなドギマギとしたぎこちない動きで僕からの荷物を受け取ったのです。
「今日は1日天気だってテレビで言ってましたけど、なんだか信じられませんよね」
「そうだな。この前のこともあったし」
「今日はちゃんと折りたたみ傘を持ってきました」
「それがいい」
それでは、と一礼して歩き出すと彼はじっとこちらを見続けます。それは僕が角を曲がるまで。曲がる前に振り返って小さく手を振ると彼は一瞬ピタリと動きが止まって、手を振り返してくれました。
それがとても嬉しくて。今度からはそうしましょう。

あの返し方は変ではなかったか。ちゃんと返せていただろうか。突然振り返って手を振られたものだからどうしていいか分からなかった。
とりあえず手でも振っておけと結論が出たから振り返したら、満足そうに笑んでいたし正解だと信じたい。
丁寧に畳まれたタオルは柔軟剤の柔らかな香りがする。やましい意味は無いがこれがあの少女の香りかと納得してしまった。本当に。断じてやましい意味ではなく。純粋に、そう思っただけである。
丁寧に巻かれた傘はあの時の水気など一切なくカラリと乾いている。真っ黒な蝙蝠が羽を閉じて休んでいるかのような出で立ちのいつ見ても飾り気のないつまらない傘である。それでも、彼女が指した時はなんだかちょっと高価に見えたものだ。洒落たモデルが着た服は綺麗に見える錯覚と同じだ。
「は……」
タオルと傘しか貸していなかったはずだがタオルから1枚の紙が落ちてくる。少し厚手の小さな紙で所謂メッセージカードと言うやつである。そこには小さく丁寧な文字で感謝の言葉が記されていた。少女の文字はボールペンで記されていて一番下には彼女のサインが入っている。
「……綺麗に書くもんだな」

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