長編小説部屋

□Episode.04
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 意識を手放してからどれだけの時間が経過したのだろうか。揺れ動く身体と呼び掛ける声に、舞はゆっくりと覚醒されていく。
 薄っすらと目を開ければ暗い闇に染められた部屋。外からは虫達の鳴き声が聞こえ、時計に視線を動かせば深夜十一時手前を表示している。眠りに落ちてから一時間少々が経過した頃だろうか。空耳と近所を走る車の振動だろうと決め、寝返りを打って再び眠りに落ちようとするが……。

「おい、起きろ」

 はっきりと聞こえた声に寝ぼけながらも声の主の方へと身体を向けると、暗い部屋の中で輝くような赤い目が彼女を見据えていた。

「なぁ……に? 早く寝ないと……明日はがっこ……う……」
「寝ぼけてないでさっさと起きろ」

 強引に上半身を起こされ、無理矢理覚醒を促される。大きな欠伸をしつつも、重い瞼はなかなか開こうとはしなかった。
 小さく舌打つ音と共に身体が不自然に温かくなってくる。頭こそ起きたものの非常に重い瞼は中々開こうとはしないが、声の主と赤い目の持ち主は確認する事が出来た。その眼と優しくない起こし方はウルフに違いない。

「なに……? こんな夜中に……」
「それはこちらの台詞だ。何をチンタラしてやがるんだ! さっさと行くぞ」
「行くって……こんな時間に何処に行くのよ」
「決まっているだろう、獲物を狩りに行くんだ。さっさと準備しろ」
「……なんですと?」

 突如告げられたその言葉に舞の思考が固まる。
狩りに行くと確かにそう言った。だが今は真夜中に等しい時間帯で、それに今日は心身共に疲れ果てている。明日は学校に行かなくてはならず、今必要なのは鋭気を養う為の睡眠だ。

「冗談でしょ? 寝てから間もないじゃない」
「知るか、俺は狩りに行けと言った。さっさと行かない貴様が悪い」

 依然瞼を閉じたまま取り合えず思考を練る。リヴァイアと同等な勝負をするには市場に売られていない希少種の食材が必要である事。そして人間界ではなく魔界にある食材でフェアな勝負を挑む事。
 そこまで考えた結果、舞が決めた次の行動は布団に潜る事に確定したようだ。

「おい、起きろと言ってるんだ!」
「夜中なんだから獲物だって寝てるわよぉ。あたしも寝させてよぉ……」

 布団を頭から被り、彼の意思を受け付けない姿勢を露呈した。するとほんの僅かだけ身体が軽くなったように感じた。否、軽いというよりもエレベーターに乗ったように身体が浮き上がった感覚だ。
 そして聞こえてきたのは風の吹き荒ぶ音。先程まで虫の鳴く声しか聞こえなかったはずだ。身体を覆っていた布団もいつの間にか消え、生温い風が身体を通り過ぎる。あまりの変化に目を開けると、数時間前に見ていた景色が一面に映し出された。
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