長編小説部屋
□Episode.05
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怒涛の午前がようやく終了を迎えた。寝不足に加えてルミアの暴走を抑えていた舞も力尽き、哀愁漂う背中をそっと撫でる楓の気持ちに感謝の一言だ。
「マイ、お腹が空きました♪」
その優しさを一瞬で吹き飛ばす彼女の言葉に疲労感が更に込み上げてくる。やはり魔女でもお腹が空くのだろう。単に食いしん坊なだけなのかもしれないが……。
昼食時間ともなれば生徒の半数以上がこの食堂に集結し、大勢の人が食べている料理を見ながら目を輝かせているルミア。人それぞれが違う物を注文しているのは当然で、そのメニューの豊富さに驚きながら賛美している。
「マイ、いっぱいの料理がありますぅ♪ どれ食べてもいいのですか?」
「も……好きにして」
スライムのようにテーブルに伏せながら答える姿には楓も苦笑を浮かべるしか術はない。午前中の惨劇を止めていたのはこの二人なのだから、気持ちは良く分かっているようだ。
立ち上がる気力の無い舞をそのままに、二人は食べる物を注文しに場を離れる。暫くして戻ってきた楓は彼女の分も持っており、素敵な心遣いに涙が出てしまう勢いだ。一方、ルミアの手には普段誰も食べない一風変わった昼食を持っていた。
それはこの学食に不似合いであるお子様ランチ。一体誰が食べるのか分からないが、何故か置いてある珍メニューであり、舞がこの学校に来て初めて注文された一品である。
「あんた、何でそんな物を頼んできたの?」
「この一つのお皿の上に色んな食べ物がいっぱいあって、見るからに楽しそうですぅ♪」
お子様ランチと言えば低年齢層が食べる定番メニュー。数種類の小さな料理が一つの皿の上に所狭しと並んでいる、言わば小料理のお楽しみ箱。カラフルな色合いで、舌だけでなく目でも充分に味わえるのは確かに一理ある。
魔界には恐らくこのような食べ物は存在しないのだろう。だからこそ珍しくて面白いと思い、この料理を選んだに違いない。見た目は同い年に近いが、精神年齢は子供並なルミアにはお似合いな料理だと少し失笑した。
楓が持ってきてくれたのはカレーライス。舞は昔からこれが好きで、迷った時はいつもカレーと決めている。
二人が両手を合わせるとルミアも慣れたようにこの仕草を行う。人間界に来て初めて知ったこの風習は魔界には存在せず、この国独特のモノだとも知った。他の国でも似たような風習はあるものの、趣意は同じである。
「舞、一つ聞いていい?」
小さなお蕎麦を啜りながら楓が問い掛ける。隣に座るルミアを見ているのはやはり興味があるからなのだろう。
「瑠味亜ちゃんって魔女なんだよね?」
「ぶふぉっ!! ゲホッ、ゲホッ……」
直球な質問に対処していなかった舞は、驚きのあまりに口の中の物を全て吐き出してしまった。
確かに着ている服装はこの世界には無い変わった物である。そして目の色も違うので、普通の者ではないと理解も出来よう。だが、魔女というキーワードを一発で当てる事は簡単ではないはずだ。