長編小説部屋

□Episode.06
1ページ/10ページ

 移動を終えた二人の前に移るのは第五圏にあるヒュイナ市場。所狭しと並べられた屋台はどの市場も変わらないが、並べられている物はレミ市場とは違う。
 取り敢えず市場を見回すと、映ったのは肉類の豊富さ。レミ市場は全体的に果物類が目立ったが、この市場は肉類が特に映える。長く透明なガラスケースに陳列する餞別された部分肉はアイテム数が非常に豊富だ。
 スーパーでも生鮮や塩干等、得意とする食材が多く並ぶ店があるのは当然。魔界の市場でもやはりそういった傾向にあるのは収穫する特産品によりけりなのだろう。

「マイ、見てください。これが地獄餃子に使われていたマウリバオオブタですぅ♪」

 名前がオオブタだけに想像はしていたが、やはり度肝を抜く大きさだ。豚の首は一般の養豚場で見られる豚とは格違いのレベル違い。人間界の野生豚でもここまでは大きくならないであろう。
 捕獲するのにどれだけの労力を必要とするのだろうかと疑問が浮かぶ程だ。
 だがこれだけの大きさにも関わらず、肉の味が濃厚である事には正直驚きである。大きければ味も大味(おおあじ)になってしまうものだが、この食材は全く別物。繊維質も細やかで、噛めば噛むほど肉汁が溢れてくる上質な肉だ。
 人間界ではまず考えられない食材で、もし存在するならばかなりの金額で取引されるだろう。こんな食材が人間界にもあればと思いながら夢中で市場内を徘徊していく。

「マイ、マイ」
「ちょっと待って。うわわっ! でっかい肩ロースねぇ♪ これで何枚のトンカツが出来るのかしら♪」
「そろそろ行かないと間に合わなくなっちゃいますよぅ」

 彼女の言葉に自身が夢中になって見回していた事に気付いた。時間を伺うと、市場に入ってから既に二時間は経過しているとの事。見慣れなかった魔界の食材も、今は『新しい食材』に見解が変わっていた。
 料理をする者としては並列しているものに興味が沸かない訳がない。ルミアが人間界で新しい食材達を見て興奮する気持ちがよく分かる。
 まだ見ていたいのは山々だが、晩餐の始まる時間は待ってはくれない。折角の招待で遅刻してしまっては愚の骨頂というよりも、リヴァイアの怒りが真っ直ぐに向けられる恐怖の方が大きい。
 大きく息を吐き出して興奮した心を落ち着かせた。

「よっし! じゃあリヴァイアの晩餐に行ってやろーじゃない!」
「です! では第九圏の氷地獄に出発ですぅ♪」

 当然沸き上がるのは期待に込められた深層にある興味と不安。敵陣に乗り込む舞の目は今まで以上に輝いていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ