長編小説部屋

□Episode.09
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 ルミアより受け取った本には魔界に存在するモンスターが記載されてると言っていた。しかも載っている全てが食材で、無論昆虫にも似た不気味な生物もご丁寧に描かれている。
 更に読み進めて後半以降になると、モンスターから果物、そして一風変わった木の実らしいものまであるようだ。果物が描いてある所にはドウコクリンゴも載っており、呻いている表情はかなりリアルである。
 果実や木の実にも捕獲ランクが表示されているのは環境的要因によるものなのか、それとも別な理由があるのだろうか。

「……さっきから呼んでいるんだが聞こえなかったのかい?」
「うひゃあっ!!」

 突然の声に驚いた舞は思い切り身体を反らせた。何かに夢中になっている時はまさに無音の世界。そんな真っ最中に呼び止められようものなら異常なくらいに驚くのも無理はない。

「い……いきなり声を掛けないでよ! 心臓が飛び出るかと思ったじゃない!!」
「興味を持つのはいい事だよ。それより飯が出来たから早く降りてきな」

 時計を見遣ると既に五時を過ぎている。神埼家の夕食が少しばかり早いのは晩御飯を食べに来るお客に対応する為で、一番のピークは六時から八時。その間はずっとお店に出ているのだ。
 帰ってから少々のお小言を終え、それから本を見始めた。かれこれ二時間近くが経過し、本人もこの時間経過に驚いている。それだけ未知の食材や、これから対峙するであろうモンスターに興味があると言えよう。
 ほんの少しの動揺を見せながらも階下へと降りていくと、リビングには大量のスクランブルエッグが並んでいるが、リヴァが色々と試行錯誤をした結果と思われる。成功したものや失敗してソボロ状になっているのもあるが、これはこれで微笑ましい成果だ。
 だが一つだけ気になるのは白いお皿に乗っている黒い球体で、大きさは野球ボール程度。意識がそちらに集中し、疑問が浮かんでくる。

「この黒いのは何?」
「あ、それは私が作ったスクランブルエッグですよぅ♪」
「……なんですと?」

 何を解釈すればこれがスクランブルエッグと言えるのか。初見では砲丸投げの鉄球にしか見えず、もしもそれがお皿に盛られていたならば文句の一つも出てくるのだが。

「少し失敗しちゃいましたが、味は大丈夫です♪ マイ、食べてみてください」

 その言葉に顔が引き攣る。これは少し失敗したどころの騒ぎではない。真っ黒に焦げた物は発癌性があると言われているが、それを推奨するのは如何なものか。
 それ以前にこの食べ物らしき物体に対して食欲が沸かないのは至極当然の反応であろう。箸で突っついてみると、刺さらずに皿の上を転がっていく。これはかなりの強度で、もはや箸という武器では対応は不可。それこそ金槌で叩いて、割って食べて欲しいと推奨すべきだ。
 出来る限りの配慮の末、ようやく晩御飯を無事に終える事に成功。例の物体は床に落としても割れず、食べ物でないと認識された事で事無きを得た。
 ルミアは相変わらず他の料理を一喜一憂しながら味を確かめている。まだ食べている彼女を他所に、お茶を啜っているリヴァに視線を向けた。
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