長編小説部屋

□Episode.11
1ページ/10ページ

 海面が近づき、舞の目からは涙が噴射して脳内では色々な想いが駆け巡る。ウルフ達と出会ってこの世界に来てから落ちたという行動はこれで何度目だろうか。
 常人ならば生まれて生涯を終えるまでに数えて数回が関の山。比べて彼女は遥かに多いのは、生まれた星の下が悪かったのか、はたまた運が悪かったのだろうか……。
 だが生きながらに異世界に来れたのは稀と言うより皆無に等しい。ほんの僅かな偶然が引き寄せたこの運命は解釈を変えれば運が良いのかもしれない。
 ウルフの手がブルームから離れ、制御は完全に絶たれた。たった今これ以上事態が好転する事は望めないが、このまま諦める事は出来ない。
 下は海水だが、この速度で叩きつけられれば深海魚が漁港に揚げられたように目も当てられない姿となるだろう。それだけはどうしても避けたい思いが無尽に放出されている涙を止めて目尻を引き上げた。
 落ち続けているウルフの手を掴むと同時に、ブルームの柄を握った。

「お願いだから上がって!!」

 魔力をエネルギー源に空を舞う魔法の箒を人間が扱える代物ではない。供給されるものが無いからであるが、どういう訳か彼女は一度だけルミアを助ける為に乗り、ブルームに指示を与えている実績があるのだ。
 助けたい想いが伝わったのか、落下速度が少しずつ落ちてきた。これはブルームが制動しようとしている為だが、空中停止まではまだまだ届かない。必死で柄を握るも、やはり魔力を持たない舞が制御し切れるものではなかった。
 海面まであと僅か。痛みに耐えるために目を堅く瞑ると、肩が外れるような衝撃が襲う。恐る恐る目を開けると、ウルフが水面に触れるか触れないかの位置で止まり、見上げればリヴァが引っ張ってくれていたのだ。

「リ、リヴァイア!」
「全く……お前達は大人しくしているという事を知らないのかねぇ」

 溜め息混じりに吐き出す言葉には呆れ返っている様がありありと見えるが、助ける意思が無ければここまで追いつかなかったはずだ。ウルフとはいがみ合っていながらも助けてくれた事に感謝の意を伝える。
だがー。

「舞、悪いけどここまでだよ。そろそろあたしも限界だ」
「……なんですと?」

 彼女の言葉を理解する直前、まるでプッツリと糸が切れたかのように三人はそのまま海に落ちてしまった。大きな水しぶきが上がり、水泡の中から慌てて顔を出した二人がウルフを引っ張り出すも、変わらず眉を顰めて苦しげな表情だ。

「ウルフ!? あんたやっぱり調子が悪いんじゃない!」
「こんな所で言っても始まらないよ。とりあえず陸地まで連れて行くしかないね」
「泳いでって……此処は大丈夫なの?」
「人間は本気で呑気だね。どの場所にもモンスターが存在するのは当然だよ」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ