長編小説部屋

□Episode.13
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「う……う……ん」

 暫くして起き上がった舞の額には大きな瘤が赤々と輝いている。これだけの衝撃を受けて気絶していたにも関わらず、僅かな時間で覚醒したのは耐性がついてきた証拠なのだろうか。それともルミアやウルフに付き合わされ、鍛え上げられた結果なのかは定かでは無い。
 頭を振りながら隣のジェシカを見た後、周りの景色を一瞥する。前方には高い壁が聳え立つが、周囲は吹雪によって白の一色に染められていた。
 吹き荒れる風が体温を奪い、次第に身体全体が氷のように冷たくなる。意識も遠退いて完全に氷の人柱になると思っていたが……そうはならなかった。確かに寒いとは感じるが、以前来た時のように凍り付いてしまう程でもないのだ。

「あ……れ、思ったほど寒く……ない?」
「……ったく、お陰でえらい目にあったぜ。お前が持っているイラステッドには保存状態を保つ特殊な障壁魔法が掛かっているんだ。寒くないのはその影響下にあるからだろ。知らなかったのか?」

 そんな事は全く知らず、そしてこれを持っていたルミアは何も言ってくれなかった。ここでも彼女の性格が遺憾なく発揮されたと思うと溜息ばかりが出て何の言葉も出てこない。
 思い返せば第六圏に来た直ぐに海に落ちてしまった。すぐに島へと上陸したものの、服はずぶ濡れになり当然手に持っていた箱も同意である。だが服はおろか髪すら全く濡れていない。ドーナツは水に濡れれば食べられたものではないが、そんな問題は皆無であった。
 当時は全く気付かなかったが、これもイラステッドの効力により守られたのだろうか。となればこれは彼女が持っていた方が色々とお得なのではないかとも思う。

「それにしてもお前、一体何をしたんだ? 賞金が十万グリルなんて半端な額じゃないぞ」

 そう告げるジェシカの言葉に呆然と口を開ける。何の事を言っているのか全く理解出来ないが、彼女の目は冗談を言っていない。手渡された一枚の張り紙を見て、舞は器用に右の眉を上げた。

「これってあたし……ですよね。もしかして美人コンテストの有力候補とか!?」
「どう考えればそんな解釈になるんだ。……これは手配書だぜ?」
「な……なんですとぉーーーーッ!?」
「それにルミアのもある。血印があるという事は……ルシファー様直々の物だな」

 目がニュッと飛び出した後、外れるように落ちた顎は地面に付いてしまいそうだ。ぷるぷると震える両腕は動揺を隠せないようである。何故いきなり指名手配されたのかは分からないが、ジェシカは頭を掻きながら溜め息を吐いた。
 ふと思い出した事があるが、それだけでここまで事態が悪化してしまうものなのか。その一件とは舞とルミアが無断でSクラスの厨房を使用した事である。確かにルミアは怯えていたようだが、まさかそれがここまでの結果になってしまったのだろうか。
 それ以外は全く思いつかない。後は人間界と魔界を行き来し、獲物を狩ったぐらいなのだから。
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