長編小説部屋

□Episode.15
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 轟音を撒き散らして突風と共に黒い渦から姿を現した二人。吹き荒れた風によって机の上の物が壁に叩きつけられ、箪笥は勢いよく横倒しになった。

「相変わらず整理されていない小汚い部屋だな」

 此処は七畳の大きさを誇る舞の部屋。そんな狭い空間でいきなり突風が荒れようものならばこうなるのも仕方が無い。しかも強制的な空間移動によって起こってしまった事実だが、その点に関しては全く気にしていないようだ。

「居場所は分かるのかい?」
「ガッコウとやらに行けばいるだろう。場所は覚えている」

 走って十分程度の場所なのですぐに到着する事が出来るが、その時間すらもウルフは惜しいようだ。マジカルブルームを呼び、二人は早々に学校へと向かった。
 その一方で学校では鳴り響くチャイムが一時間目の終了を知らせた。久しぶりに脳を酷使した舞は脱力しながら机に伸び、楓はその様子を見て苦笑している。続いて二時間目も学科で、料理人を目指す者にとって学ばなければならない必須の授業だ。
 彼女は頭で覚えるよりも身体で覚える方を得意とする。魔界ではハンバーグを焼いた時に火力が強過ぎた事に対して咄嗟の判断で無事に完成出来たのは記憶に新しい。マニュアル通りでは行動を起こすにも時間が掛かり過ぎるのは当然だ。
 だがこの学科の項目だけは専門知識として覚えなければならないので、舞にとっては苦痛に等しいのかもしれない。

「舞、次は食品衛生学だよ。教室が変わるから移動しなきゃ」
「分かってるぅ。分かってるけど……学科は苦手なのよぉ」
「ふふふ、相変わらずね。講習の準備があるから先に行っちゃうけど、さぼっちゃだめだよ? 次はパンチ講師だからね!」

 顔を伏せたまま力無く手を振り、先に行くよう促す。今は疲労した脳を少しでも休めなければ確実に睡魔に襲われるだろう。そして講師からは怒りという文字に変換された愛情の篭った洗礼が確定される事になる。
 生徒達が少しずつ移動を始め、騒がしい声が遠ざかっていく。それと同時に誰かから肩を突付かれた。次の授業まではまだ時間があり、まだ休みたい彼女は小さく頭を振って拒否を露呈した。
 だがそれすら無視するかのように肩を突かれ、続いて頭を揺らされた。流石にこの行動は邪魔であり、貴重な睡眠時間を奪われたも同然である。唸りながら起き上がり、眉を顰めながらゆっくりと振り返った。

「……なによ。人が寝てるのに邪魔しな……うぃっ!? いたぁっ!?」

 少し寝ぼけていた頭に二つの拳がほぼ同時に通過した。顔を上げると視界に映ったのは見慣れた黒い服に赤い眼。額に一本の青筋を浮かび上がらせながら腕を組んでいる人物。そしてその隣では同様に怒りを露にしながら両手を腰に当てている人物がいた。

「中々来ないと思ったらこんな所で寝ているとは……。貴様、覚悟は出来ているんだろうな」
「な、何で二人が此処にいるのよ!? 魔界でバードを捕獲し……ひぐっ!?」

 舞の言葉を待たずに本日、三発目の拳が通過する。もはや余計な言葉は聞きたくないかのように強制的に黙秘を突きつけると、ウルフは腕を掴んで実習室を出ようとしていた。
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