長編小説部屋

□Episode.01
1ページ/16ページ

「相変わらず……進化が成されてないわね」

 難しい顔をしながら重苦しく告げたのは舞である。目下でお皿にのっているのは鉄球と同意のプレーンオムレツらしきもので、先程の言葉は率直な感想であった。リヴァも箸で突っついてみるが、肩を竦めてやはり同じような反応を示す。

「むー、何が足りないのでしょうか。リヴァイアと同じ材料を使っているのに……」
「足りないと言うより、根本的な何かが間違ってるとしか言い様が無いわね」
「成る程! 新しい料理法が見出せたという事ですね!」
「……だから食べられないって言ってるの」

 ルミアは頬を膨らませて心情を吐露するが、やはりこの亜物体に目を背けたくなるのは仕方が無い。
 ラッシュバードを狩って一騒動を終えたあの後、三人は人間界に戻って舞が授業の続きを受けている最中、二人は家でお店の手伝いをしていた。その時母がオムレツを作る工程でフライパンを軽快に操っていたのを見たルミアは同じようにありたいと奮起。学校から帰ってきた舞を強引に厨房へと引き込んで料理の指導を懇願し、そして現在に至るのだ。

「私のも試食してくれないか。素直な感想を聞きたい」
「綺麗なオムレツよね。あたしには無理かも……」

 砂糖が入っているのに全く焦げ目が付いておらず、蒸し焼きにしたのかと勘違いしてしまう程である。一口食べればほんのりとした甘味の中に卵本来の味を楽しめる絶妙な味加減がある。塩と胡椒、砂糖のみでここまで味を引き出せるものなのかと自分の腕と味覚を疑ってしまう。
 これが元Sクラスの腕前なのか。見るからに格が違うと判断出来よう。しかも一度教えただけでここまで仕上げる事が出来るとは思いも寄らず、以前に『余計な手間は取らせない』と言ったその言葉は本物であった。
 その点ルミアは知識があるものの、腕前は初心者以下のレベル。どれだけ丁寧に教えても、出来上がりは真っ黒な球体になっているのだ。それはまるで魔法が掛けられているかのようで、何故そうなるのかと疑問さえ浮かんでくる。
 何かが足りないのか……そう思いながら視線をオムレツに移した瞬間、別の妙案が浮かんだ。ルミアの件はとりあえず後に考えるとして、今は目の前のものを完成に導きたい。

「そうだ、このオムレツなら絶対合うと思うんだよね! それどころか超豪華料理に変身しちゃうかも♪」

 そう呟きながら冷蔵庫から鍋を取り出し、こげ茶色の物体を取り分けて火にかけた。一体何を温めているのかと無言で彼女の動きを観察している二人。そして出来上がったであろうソースをオムレツにかけて試食を促すが、リヴァイアは眉間に皺を寄せて小さく唸った。
 折角作った料理に不気味な液体を掛けられたのだ。気分を害するような行動に睨みを利かせながら舞を見据えるが、フォークを差し出すその瞳には確信を得ているような自信に満ちた視線を送っていた。

「ほら、早く食べてみてよ!」

 思い切り疑いの眼差しを浴びせながら一口食べると、突如彼女の眉が大きく跳ね上がる。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ