長編小説部屋

□Episode.02
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 彼女なりの目標への導き方で結果はどう繋がるのかは分からないが、これで指導する基礎が固まった。次は進むべき方向を決めなければならない。料理の種類は数多くあるが、舞の範疇で分けると『和・洋・中』の三種類がある。たったそれだけと思われるが、その一つ一つが奥深い。アレンジや下味次第でどれだけでも味や姿を変えるので、その一つを選択するだけでも充分に対応は出来るだろう。

「ねぇ、あんたは何を作りたい……じゃなくて、何が食べたいの?」
「食えれれば拘りはないが、ゴーランドアリゲーターが美味かった。狩るにも骨を折ったが、さすが六ツ星と言える獲物だったな」
「あのね……食べたい食材じゃなくて、食べたい料理を聞いてるんだけどさ」
「俺様が料理の事を知るはずがないだろう。それくらい貴様が考えろ」

 確かに興味が無い者に聞くのも無粋というものか。だが折角作るのだから作って楽しく、食べて楽しんでほしい。何事も楽しめなければ継続は難しいものだ。
 このままでは埒が明かないので、これまで食べてきた物を順に問う事にした。するとやはり予想した通り、彼は手の込んだ料理をあまり食べていない事が分かった。話が進まなくてうな垂れていると、顎に手を添えながらふと意外が事を告げられる。

「俺ではないが、ルミアが食った餃子とやらが気に入ったな」
「餃子って……もしかしてレミ市場で食べたあの餃子の事?」
「それ以外に無いだろう。それに人間界で食ったカラアゲとやらも印象に残っている」

 その言葉に希望の光が見えてきた。お互いの記憶は共有し合っていないものの、ウルフは内面からルミアの行動を把握しているので、それは味覚も同意である。更に聞けば舞の家で食べた物に印象が多く残っているらしい。これでようやく何を目標にするのかを展開する事が出来そうだ。

「何となくだけど決まったわ。あんた達には幅広い料理を教える事にする!」
「幅広い……だと?」
「そ! あたしの家って定食屋でしょ? 専門じゃなく色んな物を出してるから、ある意味打って付けだと思うんだ。作る方も食べる方も飽きないって事が大きな利点じゃないかな」
「貴様が言うならそれに決めてやる。だがリヴァに遅れを取る事は許さんからな」
「遅れるか遅れないかはあんた次第! さぁ、さっさと始めるわよ♪」

 床に転がっていたボールを拾い、テーブルに散っていた卵を集める。旅立ちを決めた当初はまさかこうなる事は予想もしていなかった。その時々で状況は大きく変わるが、舞は少しでも良い方向に向くように応じた行動を選んでいるだけ。今回もまた然りである。

「ここに卵があるんなら折角だし、卵焼きから始めようかしら。ウルフ、卵を崩さないように一つずつ割ってご覧なさぁい♪」
「貴様……狩りに出た時は今後一切容赦せんからな」

 これまで獲物を狩る為に助けてもらう立場であったものが、今は舞にとって優位な位置となっている所為で言葉遣いにも随分と余裕が伺える。新たなる一歩を踏み出したが、出だしから不穏な影が漂ってしまった事にまだ気付いていないのか。
 卵を混ぜている時に怒りの所為で箸が折れてしまったが、怒鳴らずに耐えたのはウルフも成長している証拠なのだろう。

「取り敢えずは見ててくれる? 工程を教えるよりも見た方が分かりやすいと思うからさ」
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