長編小説部屋

□Episode.03
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 猛吹雪の中を駆け抜けていたウルフが魔城に到着するや否や、勢いよく扉を開けて中に入ると二階の階段前で副料理長のイル姉妹が何かを話していた。何故この者達がこの場所にいるのかと眉を顰める。
普段は二階から降りて来ない事が殆どで、たまに降りてきてはSクラスの厨房でスイーツ部門の魔女達に指導をしていたはず。そんな二人が此処にいる事が珍しいのだ。
 だが悠長は出来ないので早々に間をすり抜けようとした所、『舞』というキーワードが聞こえ、意識と足が止まる。二人の会話に出てきたのは『舞・リリス・部屋』の三つの単語で、概ね理解したウルフは堰を切ったように問い掛ける。

「おい、舞は二階で何をしている!?」
「どうしましたの? ……Dクラスシェフがいきなり無礼ですの」
「そんな事はどうでもいい! さっさと答えろ!」
「何なのだお前! 偉そうな口をきいて偉そうなのだ!」

 埒が明かないと判断したウルフはミファの頭を飛び越えて階上へと駆け上がる。後方では奇声に似た怒声が聞こえてくるが、それに構っている暇は無い。最悪な場面しか浮かばない心情のまま奥へと進むと、今度はアスタが彼を見て両手を広げながら行く手を阻んだ。

「待て待て。何処に行くつもりか知らないが、この先には行けないな」
「………………どけ!!」
「どかないな。誰でも通すとまたリリスから怒られるな!」
「奥に舞がいるだろう。俺は他の奴に興味は無い」

 殺気混じりの威圧を与えているにも関わらず、アスタは道を譲ろうとはしない。この脅威にも関わらず微動だにしないのは肝が据わっている証拠。業を煮やしたウルフが火炎の魔法で強制的に動かそうとするも、炎が唸りを上げる前に手を弾かれて掻き消されてしまった。

「活きが良いのは結構だな! だが此処で魔法を使うのは良いとは言えないな」

 動きを掌握され、動きたくても動けなってしまった。一見では間が抜けているかのように思えるが、その実力は本物である。瞬発的な動きと的確な判断力はこれまで実践を重ねてきた経験なのだろう。このまま対峙しても勝てる見込みが薄いと、自身の心が警鐘を鳴らしていた。
 己の実力を把握しているからこそ相手の力量が分かるというもので、さすが副料理長クラスの魔女であるとウルフは歯を軋ませた。だがここで無駄な時間を費やす訳にはいかず早々に切り上げる必要があった。しかも自身が優位な立場にある事が必須となる。
 気になっていた舞が居るであろう奥の部屋が不気味なほどに静寂に包まれており、何か突発的な変化があれば悲鳴の一つでも上がっているはずだ。それが無いという事は何も起きなかったのか、もしくは既に事が過ぎてしまったのか。出来れば前者であってほしいと願う。

「何処かで見た事があると思えば、つい最近Dクラスに昇格した魔女だな。それと誰かの妹だったような……誰だったかな」

 首を捻るアスタを見て妙案が浮かんだ。この場から彼女を離脱させるには先程本人が告げた言葉を利用する以外はなく、幸いにもアスタと姉のジェシカは友人である事に今だけは感謝する。彼女ならば単純な策でも要点さえ掴んでいれば簡単に落ちてくれるだろうと悟った。
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