掌編小説部屋

□Episode.02 一年を通して 一月/二月編
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〜一月編〜

「明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願いします」
「マイは可愛いです♪ ご褒美になでなでしちゃいますよぅ」
   
舞が正座をして深く頭を下げたのは新年の挨拶の為。必ずしなければならないという事は無いが、これもこの国の風習の一つである。だが魔界には新年を祝う事が無く、彼女の作法に疑問が浮かんでいるようだ。何の事か全く分からないので、とりあえずは頭を撫でた模様。

「そうじゃなくてさ、この国では新年を迎えたらこういう挨拶をするの。その後は初詣に行っておみくじを引いたり、お節料理を食べたりするのよ♪」
「それは知らなかったです! ところでお節料理というのは一体なんですか?」
「それぞれ意味を含めた料理をお重に入れて振舞うの。黒豆はマメに働くとか、数の子は子宝に恵まれるように。昆布は喜ぶとかね! 海老は縁起物としてあるんだけどさ」
「とにかく食べ物がいっぱいあるのですね! それはとても素晴らしい行事だと思います」
   
沸騰したヤカンのように鼻息を荒く噴射させたのは、想像を絶する料理達が所狭しと並んでいる事を思い浮かべているからなのだろうか。シェフという立場だけあって料理に関する事に興味を抱くのは良い事であるが、実際は料理ではなく食べる方に興味があると突っ込みを入れたい所だ。

「マイ、お腹が空きました。早くお節料理というものを食べたいです!」
「その前に初詣に行きましょ! お節はそれからって事で♪」
「えぇ〜……ぽんぽんが悲鳴を上げていますよぅ。今すぐじゃないと餓死してしまう危険大なのです!」
「ふぅん、神社には魔界にあるような屋台がいっぱい並んでいるのになぁ。焼きそばや唐揚げなんかは定番なのになぁ〜。そっかぁ、行かないんだったらしょうがないわね。あたし一人で行っ……」
   
突然袖を引っ張られた事で言葉が止まってしまった。見ればルミアが俯いたままぷるぷると震えているではないか。どうしたのかと伺うと、勢い良く顔を上げた瞳はお星様のようにキラキラと輝いていた。

「マイ、初詣に行きましょう! 行かなければダメな気がしてなりませんよぅ!」
   
先程の餓死するという話は何処に行ったのだろうか。やはり行事の内容ではなく食べ物に興味がある事がこれで再確認出来た。いずれにせよ彼女には此処の風習を楽しんで貰いたい趣意もあったので、結果として申し分無い。
    ルミアが舞の腕を引いて出ようとしていたのでそのまま歩こうとしたが、ふと足を止めてしまった。眉を潜めながら彼女の頭部から足先までをじっくりと吟味し、大きな溜め息を漏らす。
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