長編小説部屋

□Episode.07
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 急いで飛び込んだ所為か、もしくはルミアの呼び寄せた渦の機嫌が悪かったのか。まるで放り出されたように渦から出てきた二人。
 幸いにも降り積もった雪がクッションとなって大した怪我は無く、この時だけは着地した場所が雪で覆われていてよかったと思う。

「ぷはぁ! 助かった……って、また雪ぃーー!? この世界はどうなってんのよ!」

 腕を交差させて寒さに耐えようと身体中が震える。先程居た場所よりも寒さは若干緩いと感じるが、刺すような冷たさは何ら変わり無い。雪の中からひょっこりと顔を出したルミアはコロコロと笑いながらある方向を指差した。

「マイ、見てください。あそこに見えるのが私の家ですよぅ♪」

 吹雪の中で薄っすらと見えるのは、飴色の木造一戸建ての掘っ立て小屋に等しい家。屋根には潰れてしまうのではないかという程の雪が積もっている。灯りが燈されているので誰かがいるのだろうが、今はそんな思考まで余裕はない。
 鼻水と涙を凍らせた舞はルミアを掴んでバギーカーの如く、雪上を疾走した。


 家に到着したのはあれから一時間が経過した頃で、戸を開けたのはこの家に住まうルミアだ。舞と言えば、再び冷凍されて氷漬けと同意となっている。
 始めの勢いは素晴らしかったが、後半では厳しい寒さに凌駕された模様。意思の強さにも限度がある。

「ただいま戻りましたぁ♪」

 舞を担いで家の中に入ると、大きな暖炉の前に静かに寝かせた。ここに置いておけば取り敢えずは大丈夫だ。暖かい飲み物を準備しにキッチンへと向かう。
 暖炉の中で揺らめいている黒色の炎はとても暖かく、暖か過ぎて逆に焦げてしまう程だ。

「あっちちぃぃーーっ!!」

 人間界の炎よりも温度が高い魔界の黒炎。暖炉の直ぐ横に置かれていたので、余りの熱さに瞬時に解凍され、意識を取り戻した舞だ。

「あ……此処ってもしかして、ルミアの家?」

 見回せば当然見た事の無い物ばかりが陳列している。家だけではなく家財の全てが木製で、しかも丸みを帯びてはいない。頭を角打ちすれば悶絶は必須であろう古い家具が並んでいる。
 壁に掛けられている中で一つだけ目に留まった一枚の写真。服装は変わらないが、エプロンを下げた幼い顔立ちのルミアの背景には主がいるであろうお城が聳え立っている。シェフになりたての頃合だろうか。
 満面な笑みは今と変わりはないが、その隣にいる人物に疑問を浮かべた。薄い紫色の髪に蒼の瞳。これはルミア同様に幼い頃のリヴァイアと認識出来る。

「何で彼女が一緒に映ってる……の?」

 隣の廊下から歩み寄る音が聞こえ、舞の疑問はその場で打ち消された。入ってきたのは湯気の上がるマグカップを持ってきたルミアだ。

「マイ! おはようございます。途中で凍っちゃったんでびっくりしましたよぉ」
「あ……はは、ごめん。って、こんな場所だと生身の人間は普通に凍るから!」
「説明の前にマイが押したんです。我が儘はダメですよぅ」
「……あのね。急いでたんだから説明なんて聞いてる暇ないでしょ……」
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