長編小説部屋

□Episode.01
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「ゲ……ホッ、ゲホッ。あい……ったたた」

 突然の出来事に現状の整理がつかないままゆっくりと上半身を起こす。腹部に滞る鈍痛に顔を歪ませながらも目を開けると、見慣れない姿が彼女の瞳に飛び込んできた。
 確かに人が倒れているのだが、見た事もない異形な姿。黒を基調とした薄手の生地はワンピースと言えば良いのだろうか。だがこんな服はどの雑誌でも見た事がない。
 それよりも気絶している彼女の尖った耳、上唇から覗かせている八重歯よりも明らかに長い歯。更には意味不明な竹の箒。
 顎に手を添えて考えてみる。この姿は何処かで見た事があるような気もするが思い出せず、答えが見出せないまま唸る小さな声に意識が呼び戻された。

「ギ……ギモヂワルイ……」
「……なんですと?」

 呟いた後に再び気を失った彼女の目はくるくると円を描いている。言われてみれば色んな回転をしながら落ちてきたはず。所謂、乗り物酔いと同意であろう。
 遠くの方から予鈴が聞こえ、確実に間に合わないと悟る。深い溜息を吐きながら立ち上がるも、どうしようものかと考えた。
 このまま進めば少々のお小言だけで済むと思われるが、それ以前に目の前の人物をこのまま置いて行けるはずもない。だが家に連れて帰れば色々と面倒な事が発生するだろう。
 低く唸りながら大きく頷くと、気絶している彼女の肩を持ち上げて、走ってきた道を仕方なく戻っていった。

「学校には遅刻しちゃうし、妙なモノは拾うし……何て朝なのかしら。まぁーーったく!!」

 舞の咆哮が虚しく空に響くも、返って来たのは背負った人物の豪快なお腹の音であった。


「ただいま……あっ!!」

 学校が終わって家に帰ると、開けるのは家の戸ではなくお店の入り口。帰宅後はそのままお店の手伝いをする為に、何時もの習慣のまま入ってしまったのだ。無論、現時刻の両親は開店の準備で大忙しである。黙って部屋に連れて行こうと思っていたのだが、あっさりとばれてしまった。

「舞、誰を担いでいるんだ?」
「え、いや……ハハハ、あの……鳥人間?」

 こうなっては言い訳も皆無。開き直った彼女は家を出てから全ての事を告白した。
 腕を組んで考える父親。そして何でも受け入れる心の広い母親。料理上手だが猪突猛進な舞。そして隣でお腹から先程より一際大きな合唱を奏でている謎の女の子。何とも言えない雰囲気に終止符を打ったのは母親である美咲さんで、調理場に行き大きな鍋に火を着けて料理をし始めた。
 十分後、母が持ってきたのは当店の人気メニュー『鳥の唐揚げ&野菜炒めエビフライ大盛り定食』。このボリュームで九百八十円は安いと近所では評判の定食だ。

「お……お母さん!?」
「此処に来たのはお腹が空いているからでしょ? だったら食べて貰わなきゃね♪」
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