長編小説部屋

□Episode.02
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「……リヴァイア」

 そう呼ばれた魔女は小さく鼻を鳴らして舞を一瞥する。

「Eクラスの落ちこぼれシェフが此処に来て、しかも人間を連れているなんてね。魂の抜け殻は高値で取引されるそうじゃないか。もしかしてそいつを売りに来たのかい?」

 彼女の発言に舞は両腕で身体を庇い、ルミアを睨んだ。眠らせて強引に市場に連れてきた事。魂の抜け殻は高値で売れる事。今までの疑問の辻褄が合い、レミ市場の存在とリヴァイアの言葉に身体を強張らせた。
 ルミアと出会ってから確かにとんでもない事態に見舞われ続けた。惚けているは彼女の元々の性格であるが、純粋な瞳に共感を抱いて共に歩もうと思ったから。
 だが先程の言葉に落胆と恐怖が心を支配する。『魂の抜け殻は高値で取引される』その単語だけが頭の中で何度も復唱され、身体中が小刻みに震え出した。

「そんな事はしません。マイは私の大事な友達ですから!」

 凛と響く声は今までに無いはっきりとした高らかな口調。それを聞いたのは舞だけではないようで、対面の彼女も少しばかり気負いしているのが見える。だが直ぐに眉を顰めると、小さく口角を引き上げた。

「そうかい。あたしはてっきり大金を稼いで逃亡するのかと思ったんだけどねぇ」
「そんな事はしません! 私は新たな味と食材を見つけて、主に納得してもらえる料理を作るんです」
「精々無駄な努力をする事だね。城に戻っても落ちこぼれのEクラスは城外にしか厨房がないんだけどねぇ」

 それに対して何も言えなかったルミアは唇を噛み、肩を震わせながら涙を流した。その涙は純粋なる思いを蹴られた悔し涙。主に心から仕える者だからこそ、結果は出ずとも彼女なりに精一杯頑張ってきたのだ。その姿を見て舞の恐怖は消え、逆に怒りが込み上げてくる。

「ちょっとあんた! 何よその上から目線の言い方は!!」
「何だい? 非力な人間なんぞに用はないよ」

 力強く一歩踏み出した舞が鋭い目付きでリヴァイアを見据える。彼女の態度は依然として変わらない。それどころか見下すように顎を上げながら冷たい眼で睨み返して来た。

「だから何だって言うのよ! 落ちこぼれだってねぇ……努力をすればあんたなんか余裕で超えられるんだから!!」
「……面白い。ではその努力とやらを見せて貰おうか。私の居場所はルミアが知っているから、いつでも勝負を掛けてきなよ」
「上等よ! 言われっぱなしでこちらの気が済むもんですか!」

 鼻を鳴らしながら視線をその場に残し、踵を返した彼女はブルームに跨って何処かへと飛んで行く。残された一人は鼻息を荒く、もう一人は溢れる涙を拭っている。
 この問題はルミアだけではなく、舞も介入する事になってしまった。それ以前に、あれだけの暴言を吐かれたままでは気が済まない。どうにかして彼女の頭を垂れさせなければ今後の沽券に関わるというものだ。
 それに舞の事を友達と呼んでくれた。その想いに応えなければ人情に欠けるというものである。
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