長編小説部屋
□Episode.03
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それだけの餃子を食べただけで九十万という大きな金額を得る事が出来る。不味ければ食べ切る自信はないが、幸いにもこの餃子は絶品だ。だが女性で二十人前の物量はかなり辛いもので、頑張れば届くかもしれない頂きだが、やはり諦めざるを得ないと判断するしかない。
「女性ならペアでの参加も可と書いてあるので、参加するのなら微力ですが私もお手伝いしますよぅ♪」
この言葉に闘志が燃え上がったのは他でもない神崎 舞。先を見据えた勇ましい眼球には『G』の文字が描かれ、獲物を狙うモンスターの如く輝いている。二人でなら完食も不可能ではないと睨んでいるからだ。
参加費用は二百グリル。ルミアの持つ所持金のほぼ全てだ。少々値は張るが、完食すれば十五倍の大金が得られる。勝利を確信した彼女は参加する事を決めたようだ。
「よぉーっし、やったろーじゃないの! 完食して九十万ゲットよぉ!」
「マイ、頑張りましょう♪」
歓声が上がる中、挑戦者用の椅子に座る舞は既に得た賞金で何を買おうかと考えている様子。ルミアはいつもの通りで、緊張感の無い余裕な表情である。
そんな二人の前に出された熱々の餃子。わざと焼きたてを出すのは店主の策略だろう。火傷する程の熱い餃子は美味いが、食べるには時間が掛かる。それが狙いだ。
「それじゃ行くワニ。スタぁーートッ!!」
合図と同時に食べ始めた二人。周りの観客からも声援が上がり、ボルテージは一気に跳ね上がった。
美味いの決め手となる高温の熱い肉汁が最も強敵だ。箸で突きながら肉汁を逃がし、タレで少し冷まして一気に頬張る。それでも広がる旨味だが、今は感傷に浸っている暇はない。目の前の全てを消化していかなければならないのだ。
隣のルミアは日頃と何ら変わらない相変わらずのペースで食べているのだが……。
「はむっ……はむっ……ふぅ、もうお腹いっぱいですぅ♪」
一人前を食べ切る前にあっさりと箸を置いてしまった。舞は口の中に溜まった餃子を吹き出しそうになるのを堪えて一気に飲み込むと、置いた箸を掴んで彼女に差し出す。
「ちょ……ちょっと、何も食べてないじゃない!」
「さっき二人前を食べたので、お腹が一杯になっちゃいました」
「冗談でしょ!? あんたが頑張ってくれないと完食なんて無理よぉー!!」
「微力ですが……って初めに言いましたよ? マイなら大丈夫です♪」
「何を根拠に大丈夫だって言えるのよ! 食べ切れる訳ないじゃない!!」
早々に戦線離脱したルミアに食べる事を促すも効果は皆無のようだ。だが無情にも時が経過するのは止められるはずもなく、また棄権する訳にもいかない。いきなり追い詰められた舞の目には闘魂の炎が宿った。
「こんな所で負けてちゃあまりにも幸先が悪過ぎるわよ! こーなったらトコトンやったろーじゃないの!!」
負けず嫌いの性格が彼女を奮い起こしたのだろうか。踊るように食べる手がまるで千手観音の如く幾重にも重なって見える。食べ切れないと確信していた店主の顔が少しずつ曇り始めた。