長編小説部屋

□Episode.04
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「う……そ。此処って……魔界なのぉーーっ!?」

 重かった瞼が瞬時に見開かれ、景色とウルフを交互に見交わした。

「貴様がさっさと動かないから連れてきてやった。ありがたいと思え」
「ちょっと待ってよ! あたしだって都合ってもんがあるんだからね!」
「黙れ! 俺は俺のやりたいようにやる。お前は黙って着いて来ればいい」
「お前や貴様って随分な呼び名じゃない!? あたしには舞って名前があるんだから!」

 闘争心剥き出しで彼に迫るも、鼻を鳴らされるのみ。嫌味を込めて舌を出す事で精一杯の反抗を示しただけに終わった。
 すぐ隣には鬱蒼と生い茂る森がおぞましい威圧を発しながら存在している。彼の目的は恐らくこの森だろう。でなければこんな場所に移動してこないはずだ。
 だが此処は最初に来た所とは何処か違う雰囲気を感じる。更に暗く、何処となく空が赤々しい。そして感じたのは悪寒を感じる程の緊迫感を含んだ嫌な空気だ。

「ねぇ、此処ってどこなの? なんだか……嫌な感じがするんだけど」
「此処は第五圏だ。魔界は何層にも分かれ、下に行けば行くほど希少種が多く存在する。先ずはこの辺りからがいいだろう」

 そう言って懐から取り出した魔銃弾を放り投げると、森の奥へと進んで行く。呆然とその姿を見ているも、舞は自身の姿に腕を交差させた。
 彼の着ている服は変わらないが、舞はパジャマ姿なのだ。こんな格好で森へ入れば破れる・汚れる・恥ずかしいの三拍子である。せめて私服に着替えたいと提言するも『ふざけるな』の一言であっさりと断られた。
 ウルフは溜め息混じりに人差し指をくるりと回すと、小さな煙と共に舞の着ている服が重厚な鎧へと変わる。見た目からして頑丈そうな鎧に、一般市民の舞は何となく安心した模様。

「これで異存はないな? ならばさっさと行くぞ」

 何の抵抗もなく歩いていくウルフに対し、亀のようにゆっくりと歩いていく舞。それもそのはず。装甲の鎧が重く、しかも関節の位置がとても具合悪いのだ。腕を伸ばして歩く姿はまるでペンギンのようである。

「ちょっと……待って。この鎧……ものっすごい重いんだ……けど!!」

 語尾に力が入るのは歩き辛さを存分にアピールしている為。歩くだけで体力を消耗するこの鎧は養成ギプスさながらだ。睡眠から目覚め、遅刻ぎりぎりで学校まで走り切るよりも遥かに辛いものがある。そこいらの考慮が足りないのはやはり性格が物を言う所であろうか。
 森へ入るが意外にも歩きやすい事に気付いた。本来こういった森は倒れた木や飛び出した枝が侵入者の邪魔をしたがり、とても歩き辛い。だが不恰好に歩く舞でもあまり抵抗なく歩み進める事が出来た。
 彼女の視野はとても狭い。顔と頭を覆う兜なのだが、僅か指三本分程度の隙間から前方を確認する事しか出来ない。無論、後方・側方の視野確認など皆無である。身体全体でぐるりと回れば話は別だが……。
 先を歩いていたウルフが立ち止まる。右手に魔力を集め、警戒を高めるのは何かが近づいてきた証拠だ。
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