長編小説部屋

□Episode.05
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「な、なん……ちょ……ルミ……」
「はんばぁぐがとても美味しいですぅ♪」
「瑠味亜ちゃんが話してくれたんだ。魔界から食材と知識を求めて来てるんだってね!」

 どうやら注文している時にルミアが自ら話してくれたらしい。自身が魔女だと言う事が他にバレたらどうなるかぐらいは考えて欲しいと切望する。
 頑張って隠そうとしていた舞だが、ここまで知れては逆に不信感を与えかねないのも事実。極力理解出来るよう楓に全てを打ち明けるしかなかった。

「成る程ねぇ、それで昨日はお休みしてたんだ」
「はむっ……はむっ……このタコさんういんなーが可愛いですぅ♪」
「あんたは本気で余裕よね……」

 危機感が足りず本気のマイペースのルミアに脱力する舞。気持ちとしては色々配慮をして動いていた事が全てちゃぶ台返しされた気分だ。昭和初期の堅物親父がいきなりキレた映像が脳裏を通り過ぎる。

「じゃあルミアちゃんって何処に住んでるの? それと年齢は?」
「はむっ……はむっ? 私の家は魔界の第九層にあって、今年で百六十歳ですぅ♪」
「……なんですと!?」
「人間で言うと……えーっと、二十歳ぐらいでしょうか。魔界は流れる時の速さが違いますからね♪」

 以前聞こうと思っていた事があったが、それはルミアの年齢。その時はタイミングが合わなかったので聞けず終いだったが、今はっきりと聞いて開いた口が塞がらなくなってしまった。
 冷静に考えるとルミアの言っている事は間違いないだろう。実際ウルフと一日近く魔界にいたにも関わらず、人間界に戻ってくると数時間しか経過していなかった。これが魔界と人間界との時の流れの差なのか。
 だがここで疑問に思う所があった。人間界とは時間の流れる速さが違うとはいえ、百六十年という長い年月を生きている事実。肌の衰えはおろか、身体の老化現象は長年生きていれば必ず訪れる宿命だ。
 だがルミアを見れば同年代の女の子であり、とてもその年齢には見えない。もしも人間がそこまで生きていたならば……種屋のアンデットの主人と似た様な姿だろう。この秘密は基本となる身体的要因があるのか。その疑問を上げたのは舞だけではなく楓も同じであった。

「どうすればそんな長い間ずっと若々しく生きていられるの?」
「教えて教えて! 若々しさを維持する食材でもあるの!?」

 この二人の質問は同じ女性であれば永遠のテーマとも言え、身を乗り出した二人にルミアは満面な笑みで答えた。

「ドウコクリンゴの主成分であるボエ糖と堕落酸が肌を活性化させるのですよぅ♪」
「あんまり響きの良くない成分名ね……何となくわかったわ」
「ドウコ……ク……リンゴ?」

 その林檎を知っている舞は楓に向かって首を横に振っている。彼女の表情からして、とんでもない食材という事だけは何となく察しがついた模様。肩を竦めた時、午後の授業が始まる予鈴が校内に鳴り響いた。
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