長編小説部屋

□Episode.05
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 太陽が傾き、晴れ渡った空が焼けて褐色に染まり始め、時は夕刻手前。授業が終わった校庭には帰宅する者で溢れ、それぞれが次の目的地へと足を運ぶ。
 この人込みの中で肝心の舞とルミアの姿が確認出来ないのは神の所業か、もしくは悪魔の悪戯か。
 二人はまだ実習室にいた。真っ白に燃え尽きた舞と、それに付き合っていた楓も同意に等しい。そんな二人を見て、困った表情をしながら首を左右に振っているルミア。姿が見えなかったのは悪魔の悪戯に類似した魔女の暴走によるものであるが、当人がそれに気付いていないの責めるにも責められない。
 昼食後は暴走機関車がさらに加速。火力が足りないと言って炎を召喚してパンチ講師の頭を焦がしたり、時間が勿体無いと言って冷やす食材と一緒に他の生徒達も凍らせてしまったりと、彼女のお手伝いは惨劇へと昇華された。
 『魔女という事がバレてはいけない』の意見は楓も理解してくれたが、理解していないのはルミア張本人であるが為に気苦労が絶えず、心労に力尽きてしまった二人だ。

「マイ、そろそろ帰りましょう。今日学んだ事を早くメモしたいです」

 この言葉に反応した舞。ゆっくりと顔を上げると、相変わらず笑みを浮かべている。
 授業の間ずっと暴走し続けた彼女だが、ちゃんと話は聞いていた模様。冷静に思い返せば、ルミアの行動はただ暴れていたのではなく、色んな食材や調味料を見て興奮したのだろう。常識から思い切り逸脱しながらも不器用なりに頑張っていた。その後片付けと周囲のリカバーは舞と楓が担当していたのだが。
 その甲斐あって眉を顰めながら話しているのは、今日教わった料理のレシピ。勤勉さと物覚えが速いのは彼女の特性だが、どうして料理が出来ないのかが不思議に思う所だ。

「今夜はどうするの? やめておく?」

 楓から問われたのは数日も前から予定していた男女混合の飲み会。その話を伺った時の舞の瞳はお星様のように光り輝いていた。

「行く行く! 絶対行くに決まってんじゃない♪」

 突然元気を取り戻した舞は勢いよく起き上がり、座っていた椅子は膝裏に弾かれて飛ばされた。鼻から出る激しい息は蒸気機関車そのもの。暴走列車と蒸気機関車の勢いが合わされば怖いものなぞ皆無に等しい。
 そんな彼女を見て『似た者同士』と思った楓から出る掠れた笑い声も納得が出来よう。

「あ、じゃあ今夜七時に迎えに行くから」
「わかったわ! 準備して待ってるから遅れずに来てよねぇぇーー!!」

 準備に手間が掛かると判断したのか、朝同様にルミアの腕を掴んで疾風の如く走り去っていった。顎がしゃくれていたのは今夜の為に相当気合いを入れている模様。

「たっだいまぁー!!」

 僅か数分で家に到着し、何時ものように店の戸を勢いよく開けると数名の顔馴染みのお客が座っていた。店もどうやら無事に開店出来たようで、全ての知識を総動員させた解凍作業が功を奏したようだ。

「舞ちゃんおかえり! 相変わらず元気だねぇ」
「おじさん、こんにちは! 相変わらず鯖味噌煮定食で一杯引っ掛けているのね♪」
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