長編小説部屋
□Episode.06
2ページ/10ページ
魔界の最下層に位置する第九圏『コキュートス』。さらに四層に分かれた最深部『ジュデッカ』は一切の光が無く全てが闇。この地にルミアが主とするルシファーの居城がある。
足元は大地ではなく、全てが分厚い氷。吹き荒ぶ風は絶対零度に等しい氷の結晶が入り混じるつむじ風。
「さ、さささ……さっぶぅぅーーーーい!!!」
垂れ落ちそうな鼻水が凍りつき、塩気のある氷柱へと物体変化。舞の着用しているバトルドレスは環境の変化に対応していない普段着に近い衣服だが、ルミアはちょっぴり寒がるだけで殆ど平気な様子だ。
「少し寒いですねぇ。此処が主のいるコキュートスです!」
「わわわ分かったたたかかららはは早くななな中にいいい入れれれさささ寒寒さぶ……」
「ちゃんと喋らなきゃ分からないですぅ。少しだけですがコキュートスを案内します♪」
痙攣に等しい程に激しく震えている舞の腕を引っ張り、少し高い丘へと移動する。雪上の隙間に一本の細い線が延々と続くのは、どうやらこの地を流れる川のようだ。
「あそこに流れているのが液体窒素の川で、人間界で言う温泉と同じなんですよ♪ 人間は温泉が好きと聞いています! 効能は美肌、しもやけ、肩こり、腰痛等に……マイ?」
全く反応の無い隣を伺うと、舞は苦悶の表情を浮かべながら既に凍り付いていた。
「………………。」
「もぉ〜、人の話はちゃんと最後まで聞くのが礼儀ですよぅ」
舞の耳に指を入れて霜を掻き出すと、再びうんちくが再開した。話を聞いているのか聞いていないのかは本人にしか分からないのだが。
時間にして十五分、ようやく解放された舞はルミアと共に魔城へ。暖かな炎にゆっくりと解凍された彼女は無事に意識を取り戻したのは、急速冷凍が功を奏したらしい。
やはり鮮度を保つには食材であれ人間であれ、瞬間冷凍が一番理に叶っているのだろうか。
「マイ、ちゃんと話は聞いていましたか?」
「聞いていたも何も、凍ってたんだから聞こえるはずがないじゃない!」
「むむぅ、寒かったのなら窒素温泉に入ればよかったですよぅ」
「あのね、液体窒素の温度なんて物っ凄い冷たいのよ? 余計凍っちゃうじゃない!!」
「此処の気温は一番寒い所でマイナス二百七十三度です。川の方がよっぽど暖かいですぅ」
「それはあんたらだけ! あたし達人間はそんな気温や温度には対応してないの!」
「もぉぉ、我が儘ですぅ」
やはり人間と魔女との構造の違いを理解してくれないルミアは頬を膨らませる。彼女の言う我が儘とは、一体どちらが言っているのか疑問に思う所だ。