長編小説部屋

□Episode.07
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 うな垂れる舞に暖かな飲み物を差し出してくれたが、見た目は青一色。引き攣る舞も気にせずにルミアは一口啜ると満足気な様子だ。どうやら飲み物であるが、初めて見る不気味な色合いの飲み物に躊躇は当然だ。
 恐る恐る啜っていると奥の戸が開き、部屋に入ってきたのは二人の魔女。着用している衣服ですぐに判断出来た。ルミア同様のマジカルドレスである。

「お♪ やっと帰ってきたな。一体今まで何処に行ってたんだ?」
「お帰りなさい。おや、お客様もいらっしゃってましたか」

 一人は短髪の男気溢れる女性で、椅子に座ると胡坐をかいて舞に軽く手を翳す。もう一人はルミアよりも長い髪を後ろで束ねている女性で、目が合うと一礼してくれた。

「ルミア、この人達は?」
「はい! 双子のお姉ちゃんです♪ 二人もお城のシェフなのですよ」

 見れば手の甲にはそれぞれ三つの星と四つの星が輝いている。五つ星のリヴァイアがあれだけの料理をするのだ。星が少ないだけだが相当な腕の持ち主なのだろう。ほんの少しだが自己紹介までしてくれた。
 揚げ物は誰にも負けないと自負する三ツ星シェフのジェシカ・グリード=ペンダント。
 お菓子作りが得意で、四ツ星パティシエールのミル・ウィルファ=ペンダント。
 舞も挨拶をすると、人間である事に気付いたジェシカが興味津々で顔を近付いてきた。

「魔界に生きた人間が来るとは珍しいな。ルミアと一緒にいて腹が減っただろう。市場でいい食材を見つけたんだ。とびっきりの揚げ物を作ってやるから座っていろ」

 ご機嫌にキッチンへと向かうが、先程お城でスターの晩餐を食べてきたばかり。あまりお腹は空いていないが、彼女の勢いは止められる様子もない。
 暫くして出てきた料理は黄金色の衣に包まれた揚げ物。一口齧ればサクッと香ばしく、中の食材の旨味を全く殺していない程よい揚げ具合だ。

「おいっしい! 衣のサックリ感と具材のジューシーさが何とも言えないわ!」
「へぇ、味が分かるんだな。そこまで食べてくれると作りがいがあるってもんだぜ」

 お腹は空いてはいなかったが、この世界で食べた初めての揚げ物に舞の食欲は止まらず、勢いよく食べている彼女を見てジェシカもご機嫌なようだ。
 隣に視線を移すと、ルミアが食べながら微睡みかけている。彼女にとっても今日は色んな事があって疲れたのだろう。まるでご飯を食べながら眠りにつく幼児さながらだ。
 ミルが呼び掛け、手を添えて寝室へと連れて行った。面倒見のいい姉の背中を見て舞の頬が緩くなる。自分にも優しい姉がいればと何度思った事か。理想とする光景を見て羨ましく思えた。
 残されたジェシカと舞の二人が談笑を交えていると、軽快な呼び鈴が響く。すぐ後ろの戸が外界へと繋がる戸であり、人間界の平均的な家とは少し造りが違う。開ければ家の中が丸見えだ。
 ジェシカが戸を開けると外の冷たい風が室内へと入ってくるが、暖炉の黒炎は室内の温度が下がらないよう、まるで意思があるかのように火力を上げる。
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