長編小説部屋

□Episode.07
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「お♪ リヴァイアじゃないか。珍しいな」
「ぶふぉっ!!」

 今一番顔を合わせたくない人物が来客し、頬張っていた中身が全て噴き出された。何故彼女が此処に来たのか分からないが、唐突の出来事に舞は思い切り咳き込んでいる。
 涙を溜めながら視線を動かすと、彼女はじっとこちらを見据えているではないか。

「……邪魔するよ」

 入ってきたリヴァイアは舞を捉え、無言でこちらに歩んでくる。逃げ場はない。ルミアが言っていた通り、何かお咎めがくるのだろうか。その無表情さが余計に胸中を撹乱させた。
 突き刺すように感じる彼女の威圧と、相手に隙を与える事のない眼光は蛇に睨まれた蛙のようだ。とうとう目前まで迫り、舞は告げられる第一声に戦慄する。

「ルミアは……何処にいるんだい?」

 予想通り、やはり照準は彼女に合わせられている。無断で厨房に入った罰を与える為に訪れた事が明白だ。舞は立ち上がると、奥の部屋を身体で隠すように立ちはだかった。

「ル……ルミアはいないわ。厨房に無断で入ったのはあたしの独断。彼女は関係ないわよ」

 凛々しく見据えた彼女を見てリヴァイアは肩を小さく揺する。漏らした失笑に浮かべたのは疑念の言葉。

「そうかい、ならば都合がいい。用があるのはお前だよ」

 ここで少し予想が外れたようだ。第一声から予測して、ルミアに物言いがあるのだろうと思っていたのだが。彼女はほんの少しだけ口角を上げ、顎を小さくしゃくった。

「舞と言ったね。……お前が欲しい」
「……なんですと?」

 彼女の言葉にポッカーンと口を開ける。隣にいたジェシカは話が見えず、思い切り首を傾げていた。

「え、あの……あたしはそんな趣味ないんだけど……」
「馬鹿かお前は。あの料理はお前が奴に指導したんだろ? 腕は確かだと認める。私の所に来な……そうすれば無断で厨房に入った事は水に流してやる。いい条件だと思うよ」

 凛と見据えるリヴァイアの眼は揺れる事なく舞を捉えている。魔界の食材を使った人間界の味をルシファーは美味いと言った。今まで様々な料理を出してきたが、その言葉は滅多に出て来なかった事実。
 この手の甲に輝いている五つの星はもはや無意味と悟った。彼女も一人のシェフとしてルミア同様に新しい味を求めて舞を訪れたのだ。

「でも、あたし……」
「私は見て盗むからお前は料理を作ればいい。余計な手間は取らせないよ」
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