長編小説部屋

□Episode.10
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「あ、足が痺れ……てぇ……」
「情けない奴だ。その程度でへばっているようじゃ、フロッガーに飲み込まれるぞ」
「……なんですと?」

 ウルフの突然なる発言に思考が停止した。目前には舞の身長二人分程度の少し大きな入り口の井戸がある。中は当然真っ暗で、底の方からは唸るような不気味な音が聞こえてくるではないか。

「壁にアップルマッシュルームが生えているが、底にはけろけろフロッガーというモンスターもいるからな」
「けろけろ……フロッガー? ちょっと、さっき飲み込まれるって……」

 ウルフが図鑑を広げ、記載されている一貢を見せる。一言で言えば緑と紫の体色を持つ蛙そのもの。長い舌が特徴らしいが、詳細は文字が分からない為に理解は不能。

「そいつは魔力を吸い取る特殊能力を持ち、俺達が行けばあっという間にお陀仏だ」
「フロッガーの捕獲ランクは星六つだねぇ」
「ま……ままま待って待って、あたしに行けってのぉ!?」
「貴様は魔力が無いから心配はいらん。登るついでに必ず取って来い」
「蛙ってのは苦手で見るだけで悪寒が走……」
「ゴタクはいいからさっさと行け」

 腰の辺りを軽く蹴られると、舞の身体は地を離れた。振り返って蹴られた足とウルフを見遣り、次にリヴァを見れば呑気に手を振っているではないか。続いて自身の足元を見て、不可解な現状を把握しようと試みた。
 時間の経過にしてどれくらいだろうか。実際は刹那の時を歩んでいた程度だろう。だが彼女の思考と視野は数秒の時を過ごしていたに違いない。
 人は極限状態を体感した時、脳は今まで経験してきた回避策を探らせる為に、ゆっくりとした時の経過を与えるらしい。所謂『今までの記憶が走馬灯のように流れる』と言った表現がしっくりとくるだろう。
 今彼女はその状況下にあるが、かと言って現状の打開策なぞ見つけられるはずもない。強いて言えば悲鳴を上げるか空を掴む程度のもの。

「ひえええぇぇぇーーーーーーッ!!!!」

 例にも漏れず舞は井戸の底へと真っ逆さまに落ちていった。低い音が聞こえたのは底に到着した打音。続いて悲鳴が木霊し、同時にモンスターの声も聞こえた。中で争っているのか、子供が大人数で騒いでいるような音が響いてくる。

「……何処に居ても喧しい奴だ」
「大丈夫なのかい? 生身の人間とモンスターが戦っても結果は明白だよ」
「飲み込まれてもすぐに吐き出すはずだ。魔力を好むが生気は奴にとって猛毒だからな」
「へぇ、それは初耳だねぇ」
「貴様が知らな過ぎるだけだ。Sクラスならば当然知っていると思っていたがな」
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