長編小説部屋

□Episode.10
3ページ/9ページ

 皮肉めいた言葉を投げ付け、目が合うとすぐに逸らして舌打ちをする。水と油のように馴染まずに反発し合う二人。間に舞がいたからこそ何とか均衡を保っていたが、不在の今では相容れない関係であった。
 先程まで様々な音が絡み合っていたが、いきなり静かになった。中ではどんな結果になったのかとリヴァが身を乗り出したその時、背中にジェットエンジンを積んだが如く、舞が悲鳴と共に飛び上がってきた。
 境地に立たされた人間とはここまで力を発揮出来るものなのか。棒高飛びの選手以上に随分と空高くまで上昇し、華麗に着地を決めた。だが落ちた時とは違い、身体中が粘液塗れになっている。
 両手両膝を付いて息を整えているも、額には幾つもの青筋が浮かんでいる。井戸の底では相当に体力を消耗したのか、はたまた苦手と言っていた蛙を克服して意気投合したのかは定かではないが。

「アップルマッシュルームは取ってきたか?」
「と……取れる訳ないじゃない! 必死に逃げて来たわよぉぉ!!」
「折角落ちたんだ。どうせなら成果を上げてこい」
「あんたが落としたんでしょ! 飲み込まれて口の中でモゴモゴされちゃったわよ!!」

 彼女を纏う粘液はフロッガーの唾液と消化液。一度は飲み込まれるも、不味いと判断されて吐き出されたのだろうと推測する。生気が猛毒と言っていたウルフの知識は正解であった事が立証された。

「もう一度行け。最低でも一つは取ってこい」
「絶対嫌! 落ちるなんて二度と御免なんだからね!!」
「落ちるのが嫌か。ならばそこに立つだけでいい」

 激しく抵抗と反論を唱える舞に、冷静に対処するウルフは肝が据わっているというべきか。指で立つ位置を指定し、ある程度の距離を保つ為に数歩後ろに下がったその時だった。
 突然井戸からフロッガーの舌が出現し、舞の身体に巻き付いたではないか。驚愕の声が上がる頃には井戸に引き込まれ、幾つかの悲鳴の後に再び静寂が訪れる。腕を組んで見守るウルフに、リヴァの額からは大きな冷や汗が流れていた。
 『オエッ』と響いてくる謎の声。次に聞こえた音は連続で轟く低音と僅かな振動で、その衝撃は早い速度で地表の二人に近づいてくる。最後に大きく響くと同時に現れたのは、更に粘液に塗れた舞である。しかも両手には沢山のアップルマッシュルームを持っていた。
 先程の音と衝撃は壁に手と足を強引に突っ込んで登ってきた音だろう。だが両手が塞がっている彼女が最後にどうやって登り切ったのかは不明である。

「ほぅ、己の潜在能力を存分に引き出せたようだな」

 口角を上げるウルフに対して荒い息の舞。俯きながら小声で何かを呟き、顔を上げると恍惚の表情のまま白目を向いてそのまま地に伏せてしまった。

「騒がしいか寝ているかのどちらかだな。こいつには中間ってものが無いのか」
「お前のやり方に問題があると思うがね。だがよく頑張ったよ。あたし達では無理だった」
「まぁな。六つ星モンスターと対峙して無事生還した今回は上出来と認めざるをえん」
「素直じゃないねぇ。舞に同情するよ」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ