長編小説部屋
□Episode.13
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「ふーむ、十万グリルか……」
呟きながら視線をそっと合わせる。何とも説明し難い視線を感じた舞は、錆びたロボットのように首から音を軋ませながらゆっくりと振り向く。無論悪寒を感じるような視線に、額からは滝のような汗が流れていた。
「あの、冗談です……よね? あ……はは……はは」
「はっはっは! あたしがお前を売るはずがないだろ。心配するな!」
豪快に肩を叩くも、先程の眼は獲物を狩る時と非常によく似ていた。仮にもルミアの姉である。もしかするともしかするかもしれない懸念が払拭されないのは気の所為ではないと今までの経験が言っている。
「お前達、こんな所で何をしているんだ。早く厨房に戻りなさい」
現れたのは城の護衛兵達。時折モンスターが城を襲ってくる事があるので周囲の警備をしていたのだろう。外にいた二人は偶然にも会ってしまったのだ。
「あ、魔女だけじゃなく他の人もいるんだね」
内情を知らないので当然であるが、舞はこの城には魔女しか居ないと思っていた。ジェシカは手を翳して軽くあしらうが、どうやらシェフである魔女達の方が位置関係は上のようだ。主に料理を作る為に雇われているので彼等の物腰は柔らかい。
初めて見る兵士に会釈するが、実際はそんな呑気な事はしていられない。この手配書を張ったのは恐らく目の前にいる兵士達で、当然彼女の顔は知れ渡っているはず。これ以上面倒な事は御免とばかりに舞の手を引いたその時、一人の兵士が驚いたような声を上げた。
「あ!! お、お前は手配中の魔女だな!?」
「……え?」
その声を皮切りに彼女の存在を認識した兵士達は持っていた武器を向けて威嚇をする。手配書に描かれている人物が目の前にいるのだ。一連の動きは至極当然であろう。
「チィィ、バレちまったぜ!!」
予想以上の早い展開にジェシカは舞を守るように立ちはだかった。何がどうなって指名手配をされたのかは分からないが、このまますんなりと渡してはならないと直感がそう告げている。何よりルミアの友人だ。悪い事はしていないと信じたい気持ちの方が大きい。
「舞、逃げろ。捕まったら面倒な事になりそうだぜ」
「でもどうやって!? 方向が分からないんですけど!」
言っているのはその通りで、場所の把握が出来ていない為に何処に逃げていいのか分かるはずが無い。ジェシカは唸りながらブルームを持って小さく呟くと、一瞬だけ緑色に発光した。
「これにしっかりと掴まれ! 離したら後の責任は取れないぜ!」
一体何をして何を言いたいのかが全く分からないまま、舞は言われるままにブルームの柄を握った。そして次に彼女が起こした行動とは……。
「うおおおりゃああぁぁーーーッ!!」
なんと、遠心力を利用してブルームごと舞を吹雪いている空に向かって勢いよく投げ飛ばしたのだ。魔力だけでなく腕力にも相当の自信があるようで、言葉通りあっという間に米粒ほどに小さくなっていった。それを見ていた兵士達は唖然とし、言葉を失ってしまっている。