長編小説部屋

□Episode.03
2ページ/18ページ

「俺はジェシカの妹だ。下に居るから呼んで来いと言われてな」
「そうか、あいつの妹だったな! ちょっと前に見た時はか細かったが、今は随分と男気溢れている。時が経てば魔女も変わると言うが、お前は中々見所があるな!」
「早く行け。菓子をイル姉妹に取られても知らんぞ」
「そうか! ならば仕方が無い。背に腹は代えられないとはこの事だな!」

 急いで降りていった背中を見て、至極単純でよかったと心底思う。あのまま対峙していても奥には進めなかっただろう。それに色々矛盾点はあるものの、それに触れて来なかった事も不幸中の幸いである。
 ウルフは止まっていた足を再び走らせ、僅かに漂う彼女の匂いを捉えた。この部屋で間違いはない。丁寧に戸を開ける事はせず、勢いのまま蹴り倒した。

「舞ぃーーーッ!!」
「ぶばぁっ!?」

 突如入ってきた呼び声に驚き、彼女は飲もうとしていた紅茶を一気に吹き出してしまった。むせながら後方に振り返ると、赤い瞳が息を荒くして近づいてくる。家で待っていたはずの彼が何故この場にいるのか。あの怒りに燃えた眼は魔城に入るなとの警告を無視して来た事に制裁を下す為なのか。

「ウ……ウ、ウルフ!? 違うの! あのね、魔城に来たのは理由があって……」
「それはいいから黙れ。そのままこっちに来い」

 訳が分からないまま睨み合っている魔女の二人を交互に見遣る。お世辞にも相性が決して良いとは言えないこの雰囲気に気圧され、足はゆっくりとウルフの方へと向かうも手を掴まれて強引に引き寄せられてしまった。

「カンザキマイ、話はまだ終わっていない」

 強く握られた後にまるで意識を奪われたかのように突如その場に崩れ落ち、転がったカップからは紅茶と小さな欠片が零れる。それを見たウルフの目が即座に切り替わった。

「総料理長たる者が随分な所業だな。……その魔力の欠片は何だ」
「知りたくば当てるがよい。それ以前に、その無粋な態度を許す事は皆無」
「それは貴様も同じ。俺様の所有物に手を出すとはいい度胸をしてやがるぜ!!」

 怒りを露にした黒い炎が天井を焦がした。炎の規模はリヴァと対峙した時よりも遥かに大きく、この部屋の全ての物を灰燼にさせる威力を持つ。だがリリスは臆する事無く前進し、左手から放った氷結魔法で火炎を瞬時に凍らせた。

「脆弱……故に無粋極まりなく、吠える声は耳障り」

 リリスの右手から弾き出されたように現れた炎はウルフの火炎を遥かに上回り、魔法力の大きさを表している。陽炎で視界が歪むこの炎に当てられては塵も残さず影と化すだろう。

「火炎魔法もだと!?」
「特別に指導。魔力の制御で成せる所業」
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ