長編小説部屋

□Episode.04
2ページ/21ページ

「じゃあその日はあたし達の試験日でもあるなら、その時に貴女が参考にしたいような満足する一品を作ろうじゃないの!」
「……笑止。ならば私が納得すれば大晩餐会に出品する事を特別に許そう。それで上位に上がれなければお前達の魂を浄化して頂く事にする」
「上等!   そうじゃないと賭けが成立しませんからね!」

不敵な笑みを向けながら去って行くリリスを目で追い、終始威勢を見せていた。だが姿が見えなくなった途端にこれまでの虚勢を振り返ったのか、後悔の面を全力で出しながらルミアに抱き着く。

「どっ……どどどどうしよう!?   あたしったら勢いにまかせてとんでもない事言っちゃったかもぉ!」

助けを求めた先では暖かい腕がそっと背中を抱えてくれた。この温もりはどんな事でも受け入れてくれる母親の愛情のよう。こんな異世界の地で命を賭けた事が起き、窮地に立たされてしまった時に求めるのは母という存在しか居ないのだから。
瞳を涙で濡らしながらゆっくりと顔を上げると、そこにあったのは白目で口から魂を漏らしている失神状態のルミア。どうやら彼女も同じ心境らしく、窮地に追いやられている人物の一人。抜けかけているその魂はウルフなのかは定かではない。

「いやぁ、リリスにあそこまで啖呵を切る奴はこれまででお前が初めてだな!   自ら崖っぷちに立つ勇ましさは感服する」
「……底が見えない断崖絶壁のようです」
「そんなに気負いせずとも、認められれば全く問題は無い。生きるか死ぬかはお前次第だな!」

その言葉に再び現実を見せ付けられ、舞は頭を抱えながら慟哭する。相手は魔神の舌を持つと謳われた魔界シェフ第一位の猛者だ。Sクラスだったリヴァとに勝負さえ勝機が見えるかどうか微妙な立ち位置なのに、リリス相手に太刀打ちすら敵わないのは目に見えて分かる。だが今更勝負を無かった事に出来るはずもなく、真っ向から勝負する以外に道は無い。
ただひとつだけ利点があるとすれば、それは異世界の味を持っているという事。これを武器に己が最も得意とする料理を出すしかないのだ。どうせ燃え尽きるのであれば最後まで足掻きたい……これが舞の信条である。

「アスタさん、ご指導お願いします!   こうなったらとことんやるしかないでしょ!」
「その意気だな!   それを是非ルミアにも教えてやってくれ。さっきから使い物にならなくて困っているな」

隣を見れば相変わらず魂の抜け殻のように脱力し切ってしまっている。彼女の頬を両手で思い切り引き伸ばすとようやく意識を取り戻し、慌てて何かを話し掛けてきた。だが動揺のあまり何を訴えているのか皆目不明で、物凄い訛りの方言を並べているかのよう。こちらはそれを聞いている時間と余裕が無いので、手を翳して制した後に頭を押さえてゆっくりと分かるように話し掛けた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ