掌編小説部屋

□Episode.01 舞い降りる花房の下で
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 空からは一切の光が差し込まず、暗闇と吹雪が支配しているこの世界は魔界の最下層にある第九圏。更に四層に分かれた第三層にはルミア達が住まうツリータウンと呼ばれる小さな村がある。どの家も雪に埋もれ、室内を照らす照明はまるで蛍のような淡い光を灯していた。
 その灯りの中から舞は顎に手を添えながら外を眺めていたが、流れるような吹雪を見ながら吐息混じりに呟く。

「此処ってさ……風情も何もあったもんじゃないわよねぇ」

 青色の飲み物を啜っていたルミアは彼女の声を聞いて椅子から立ち上がる。首を振りながら近づき、少し寂しそうな肩にそっと顎を乗せた。

「マイ、どうしました?お腹が空いているならドウコクリンゴがありますよぅ」
「そんな事を言ってるんじゃないの。此処って年中吹雪いてるんでしょ? いつも見える景色が一緒って、何だか寂しくない?」
「大丈夫です! 年に一度は吹雪が止むので変化はあります♪」

 年にたった一度だけの変化でそこまで豪語出来るものなのかと呆れた舞はカックリとうな垂れる。否、彼女の性格を熟知していれば華麗にすり抜けられるはず。そう思いなおしてルミアを見るも、屈託の無い笑顔を向けているのでやめる事にした。
 人間界には四季というものがあり、季節が変わると景色も変わる素晴らしい色彩を楽しませてくれる。それを説明するも、この世界は吹雪に覆われている事を改めて説明してきた。

「だからそれは分かっているから寂しいって言ってるの! あっちには春って季節には桜が咲いてとても綺麗なんだから」
「チッチッチ♪ 確かに第九圏は吹雪が多いですが、他の場所に行けば色んな景色が見れます。第三圏や第七圏は特に綺麗な花が咲いていますよぅ♪」
「そっかぁ、そういえばそれぞれの世界で環境が異なってたわね」
「そうですよ! 五十歩百歩とは人間界の諺ですよーぅ」

 それを言ってしまえばどの世界もあまり変化は見られない事になってしまうが、そこはあえて突っ込まない事にした。それよりも他圏に行けば様々な景色が見られる事の方に興味が沸き、特にルミアが言う第三圏や七圏には足を運んでみたい。

「ねぇ、そこに行ってみない? お弁当を作ってピクニックみたいな事をすれば楽しいんじゃないかな」
「…………自然のままに育てた食物の事ですね!」
「それ、オーガニックね。あたしが言ってるのはピクニック! 色んな料理を大きな重箱に詰めて、皆を呼んでそこで花見をするの♪」
「むー、色んな味でごっちゃ混ぜになっちゃいます」
「心配しなくても汁物は入れないわよ。当たり前だけどね」

 暫く思案してようやく理解したのか、手を叩きながら小さく飛び跳ねている。どうやらルミアは皆で出かける事はあまり無かったのだろう。思えば魔女はシェフになれば忙しくなるので、他にうつつを抜かす暇が無いのも仕方が無い。増してや彼女はウルフの所為もあって単独行動が多かったに違いない。

「マイ、お姉ちゃん達や他にも呼んでいいですか?」
「勿論いいわよ。人数が多い方が楽しいからね♪ でも呼ぶにも限度があるから程々にね」

 そう言わないと知っている者全員を呼んでくる可能性が非常に高い。否、ほぼ確実であろう。だからこそ先に太い釘を刺して足枷をつけておかねばならない。
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