短
□名前教えてよ
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『何で今日も居るの!?』
「居ちゃあ悪いかい?」
部活が終わり、今日の夕食の分の材料を買って帰ると、必ず居るこの人。
どうやって入ってるんだろ。
思ったことをそのまま口にすると、彼は「俺は魑魅魍魎の主だぜ?こんなこと朝飯前なんだよ」と得意げに語るだけだった。
そんな自慢げに言う事じゃないよ。
『当たり前のように言わないで』
ムッとして言ってみた。
「心愛だって当たり前のように今日も夕飯の材料、二人分買ってるじゃねぇか」
『うッ……』
何も言い返せないのが悔しい。
『アンタが毎日フラフラと現れるから仕方がなく買ってやってんのよ』
よし、言えた!
「声に出してるぞ」
『えっ!?……うぅ』
もうダメだ、自滅したい。
とりあえず話題を逸らそう。
『本当にどうやって入ってるの?』
「聞きたいか?」
『うん』
「それはな……」
『うん』
自称魑魅魍魎の主とか言うこの痛い男のことだ、きっと針金かなんかでピッキングでもしているのだろう。
「普通に窓を開けて入ってるぜ」
『やっぱり……ピッキングか』
「ちげぇよ。最初から開いてんだよ」
『マジか』
「おう」
じゃぁあたしは自分から進んで不幸の種をまいていた訳か。
気を付けないと。
(でもそうしたらこの人と会えなくなっちゃう)
こんな理不尽なことを思ってしまうのはきっと彼が好きだからなんだろうな。
でもあたしは彼のことを何も知らない。名前も教えてもらってない。
聞いた時があったけど彼は「妖怪さんとでも言ってくれ」と言うだけだった。
『本当に妖怪なの?』
「4分の1はな」
『何の妖怪?』
「ぬらりひょん」
『だから自称魑魅魍魎の主か」
「いい加減信じろよ」
もうとっくに信じてるよ。
だって百鬼夜行見たし。先頭にアンタ居たし。
まぁ、アンタは気づいていないんだろうけど。
『名前教えてくれたら信じてあげる』
これが言いたかったのだ!
「………」
バツが悪そうな顔をしている。そんなに教えたくないのかな…。
チクリ。
気のせいだ、胸なんて痛んでない。
彼はほっといて夕飯を作ることにした。