短編集

□Honey Trap
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キーンコーンカーンコーン……



終鈴の鐘が鳴る。




教壇に立っている白衣姿の眼鏡教師は、黒板を叩くチョークをピタリと止め『今日はここまで』と静かに告げる。
授業終了の挨拶もろくにせず、無表情かつ神経質そうなその横顔はヒールの音を立てながらさっさと教室を後にした。

『偏差値』だとか『進学率』だとか……。体面を非常に気にする進学校にしては珍しく、異彩を放った女性教師。
白衣姿に短いタイトスカートと高さのあるハイヒール。
しかも専門科目は『化学』。
噂によるととんでもない才女らしい……が、この『名門私立高校』には全く不釣り合いな先生だった。
そして俺はこの高校に不本意ながら通っている。




鞄に教科書を無造作に詰め込み帰り支度を始める……それと同時に携帯のバイブが振動しビクリと身体が跳ねた。


「脅かすなよ……」


ポツリと小さく悪態をつき、誰からのメールなのかを確認すると
それはつい今しがた出ていったばかりの白衣の女教師から。


「チッ……またかよ。」


意味深な言葉とため息をつきながら携帯を閉じ、制服のポケットに突っ込んだ。


「面倒クセェ……。」


鞄を手に持ち歩き出す
しかしその足は校舎から出る事は無く、普段はあまり人が立ち寄ろうとはしない『科学準備室』へ向かっていた。

人気のない廊下、不意にグランドに視線を向ければ 野球部の練習が始まり テニスコートには楽しげに球を追う姿があった。


「……青春してるねぇ。」


羨ましげに言葉を漏らし、本来なら青春真っ盛りの高校二年の今なのに 俺は一体何をしてんだか……。

半ば諦めにも似たため息を漏らし、俺は歩みを進める。



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