短編集

□俺と彼女のとある日常。
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互いの温もりを感じあえる様に強く抱きしめ、その肩口に頬を埋めた。

甘い香りと柔らかいその肢体は擽ったそうに身体を捩らせ、『もぅ…』とため息にも似た呟きを漏らす。


「センセー。甘えん坊。」


いつからこんなに彼女の事を愛しいと思い始めたのか……。

彼女は俺の生徒なのに……。


「らしくなくて悪かったな。」


それでも抱きしめたその腕は緩めることなく
いつ誰が来るかも分からない生徒会室に居た。


「ふふっ。センセー可愛い……。」


彼女は俺の葛藤なんて分かっていない様な素振りで柔らかく微笑むと『やっと独り占めに出来る』と囁く。
そして子供の様な大人の様な 危ういその表情は俺を見つめたまま近付いて来て……。

キスをしようとしたのに……。




「高橋センセー!」


生徒会室のドアが勢い良く開けられたと同時に俺の名を呼ぶ声が現れた。
弾かれたように互いに離れ、何事も無かった様に振る舞う。


「んー。どうした?沢村。」


「生徒会長が見つからなくって……って居た!!」


いつの間にかに定位置の席に座って書き物をしている彼女を沢村は指差した。
そして彼女は面倒そうに顔を上げ頬杖を
する。


「沢村クン……ノックぐらいしなきゃ駄目よ。」


少し冷めた口調にビクリと肩を震わす沢村を不思議に思いながらも 二人の会話に耳を澄ます。

副会長がどうのこうのと やたら早口に説明する沢村を頬杖したまま彼女は見上げ、ただ一言。


「だから何?」


「いえ、あの、だから、副会長ともあろう立場の人間が……」


目を細めて見据える彼女に沢村はまたビクリと肩を震わせ、直立不動に固まらせた。
時に思うことがある。一体会長の彼女は、この生徒会役員たちを普段どう扱っているのか、と……。

俺は生徒会の顧問でありながらも、あまり彼女たちに干渉をしない事にしている。
彼女たち生徒だけではどうにもならない時にだけ俺が手を貸す役割なのだ。


話が長くなりそうな沢村の様子に、俺は荷物を片手に持ち生徒会室を後にしようとドアに手を掛けた。


「あ、センセー。後で質問したい事があるのでメールします。」


ニッコリと見惚れる程の可愛らしい笑み……。


あぁ、なんだろな俺。


すげぇ尻に敷かれる様な予感がするのは気のせいなんだろうか。





多分おわり(笑)


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