短編集

□Honey Trap
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科学準備室の前に辿り着くとノックもせずに勝手にドアを開け、中に入ると当たり前の様に内鍵を掛ける。

ツーンと臭う科学薬品の匂いと 少し埃っぽい空気が喉の奥を締め付け苦しい。


何度ここへ来ても 慣れない……。


口元を手で覆い部屋の奥にあるドアを強くノックすると、返事を聞く前にドアを開き慌て中へ入った。


「……ハァ、ハァ。」


苦しそうに肩で息をし、急いで呼吸を調える。
今入ったこの部屋に関しては 薬品やら埃臭さが全く無い。
だがやたらと人を官能的にさせる様な甘い香りが立ち込めていて それはそれで異様な空間だった。


「遅いなぁー。」


整然と並ぶ本棚の裏から 少し不機嫌にもとれる声が俺に向かって投げ掛けられてムッとした。
ツカツカと歩み寄り 本棚の裏に回れば、深々と椅子に腰掛け左手には煙草を持ち、右手には赤いペンを持っ姿。

多分さっきの小テストの採点中だ……。



「祐希ぃ。満点。可愛げないわねぇ。たまには外しなさいよー。」


この女教師は何て事を言うんだ。『外せ』だと?
愕然としてしまう……。


「あー、そうそう。担任の山田センセが祐希をT大に進学させたいから説得してくれって頼まれちゃったぁー。」


椅子に座ったままクルリと俺に向かって回転し、愉しそうに笑みを浮かべるこの女教師は
どーせ説得とかそんなものをしようなんて思っちゃいない。
ただ、暇潰しの玩具が欲しくて俺を呼び出しただけ。


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