小説

□姫を賭けた王子たちの闘い。
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アイスクリームショップへ向かう途中。
日差しが強い。

姫野の黒髪は熱をたっぷり吸収しそうだ。
本城は歩きながら、自分よりずっと低いところにあるその頭を撫でた。

「本城の顔って暑苦しい」
「わぁ…ひどい」
「だって全然本城雪哉って名前みたいな顔じゃない」

確かに自分はハーフだが、姫野にそれを指摘されたのは初めてだった。本城の心はなぜか少し高揚する。

「じゃあ、なんて名前ならいいの?」
「…別に。別にどうでもいいけど」
「俺は姫野の名前すごく好きだよ。未琴の琴って響きが涼しい感じがしていいし。かわいい名前。姫野にぴったり」

姫野は無言で口を若干尖らせた。

照れてる。かわいい。
俺の姫野。

「もし、姫野のこと好きだっていう人が現れて、俺とそいつが殴り合いのケンカになったらどうする?」
「見てる」
「止めないの?」
「止めない」
「どうして?」
「本城がどうやって勝つか見たいから」

本城は恋人のその言葉の意味を噛みしめた。

「俺が勝つと思う?」
「負けるの?俺がかかってるんでしょ?負けていいの?」
「よくない。全然」
「じゃあがんばってね」
「…うん。がんばる。だからちゃんと見ててね」

例え話のはずが、本城は思いの外言葉に力を込めてしまった。

姫野は眩しそうなしかめ面で本城を見上げてから、キャラメルリボンにナッツトッピングにしよう、と呟いた。



オープンカフェのパラソルの下でアイスを食べていると、姫野のクラスの中川と土屋が偶然通りかかった。
バンドをやっている中川とバスケ部の土屋。見た目で言えばこれ以上ないくらいチャラい組み合わせだった。

「中川おごって」
「嫌だよ」

2人は特に断りもなく姫野と本城の4人掛けの席に掛けながら言い合っている。

「じゃあ姫ひとくちくれ」
「え」
「はい、あーん」
「嫌だ。自分の買ってきて」
「ケチくせぇな」
「土屋、今日部活は?」

にべもなく間接キスを断られた土屋に、本城は聞く。

「今日体育館使えないから後で地区体行く」
「バレー部練習試合なんだって。あーピアス増やそっかなー」

中川はすでに2つ穴の開いた耳たぶを触る。隣から姫野がそこを覗き込んだ。

「痛くないの」
「一瞬だよ一瞬。ブチッと」
「本城の食わせて。何味?」

横から手が伸びて土屋が本城のアイスのカップをさらっていった。

「なんだっけ。なんかオレンジとレモンとか柑橘系の」

言いながら正面の姫野を見ると、彼は土屋が本城のアイスをスプーンですくうのを見ていた。
それから本城にしかめっ面を向けて睨んだ。

「あ」
「あ?あ」
「…あ」

小さく声をあげた本城に続き、本城の視線を追った他の2人も、その意味を悟って声をあげた。

自分のちょっとした嫉妬が顔に出てバレたことに気づいた姫野が焦って下を向き、それを見た他の3人が内心悶える。

その何とも形容し難い空気を破ったのは、のんきに間延びした声だった。

「本城せんぱーい」

本城は声のした方へは顔を向けず、咄嗟に姫野を呼んでしまった。

「姫野」

姫野は本城と本城を呼んだ声がした方とを見比べている。

「やっぱり本城先輩だ」

ニコニコと4人に近づく銀髪を、本城は無視した。

「いいな、アイス。俺もここで食べていいですか」

タツキは動じた様子もなく、吊り気味の目を細めて笑みながら言い募る。
本城以外の3人に、1年のタツキです、と言いながら最後に姫野へ視線を向けた。

「姫野先輩だ」

本城はタツキを見た。タツキの顔は無表情に近い。

「え」

知らない人間にいきなり名前を呼ばれて驚く姫野とタツキの視線が交わった。
その瞬間、タツキは首を傾げて優しげな目で姫野に笑いかけ、言った。

「先輩、本城先輩と付き合ってるんですか」

それを睨み付けながら、本城は立ち上がる。

「もう帰るとこだから」

本城の言葉に、姫野たち3人は戸惑いの表情を浮かべながらも後に続く。

「そうですか」

あっさり引き下がったタツキから引き離すように姫野の手を引き、背を向ける。

「本城先輩、やっぱり付き合ってる人いたんだ」

さして大きくはないがはっきり聞こえるように発音された言葉に、1番素早く振り返ったのは姫野だった。








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